飯盒炊爨

 大学のキャンプサークルに入った私は、サークルの先輩達と一緒にキャンプ場へ出かけた。


「すごく景色が綺麗なところですね! それに連休中なのに私達の他に誰もいないし、すごい穴場じゃないですか!」


 そう言ってはしゃぐ私を見て、部長は笑う。


「あはは、喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあそろそろ夕食の準備をしようか。私達は2人でお米を炊こう」


「わぁ! 飯盒を使って炊くんですね! 私飯盒炊爨初めてですよ!」


「じゃあやり方を教えるから、一緒にやってみよう。まずはお米を研いで……そうしたら水を入れてしばらく浸して……蓋をして火にかける。火は最初は弱火、それから強火にする。そして途中で蓋を取ってはいけない。ほら、よく言うでしょ『赤子泣いても蓋取るな』って」


「ああ、なんか聞いたことあります。あれってお米を炊く時の話だったんですね」


「そうそう。あ、そろそろ強火に……」


 その時、突然飯盒から泣き声が聞こえてきた。


『ぎゃあああああああ! ま、ママぁぁぁぁ! あついよおおおおおおおおお!』


 私は驚いて腰を抜かしてしまった。


「ぶ、部長! 飯盒から赤ちゃんの泣き声が! は、早く蓋を取って助けてあげないと!」


 しかし、部長は冷静に言う。


「落ち着いて。飯盒の中に赤ちゃんがいるわけがないでしょ?」


「で、でも現に泣き声が……」


「大丈夫。これはこのキャンプ場で亡くなった赤ちゃんの霊の声だから」


「あ、赤ちゃんの霊?」


「ああ、言ってなかったっけ? 昔ここで山火事があって、その時に赤ちゃんが火事に巻き込まれて亡くなったらしくてね。それ以来このキャンプ場で火を使うと、火元からこういう声が聞こえてくるんだ。大丈夫、声がする以外に害はないから。ただ不気味なせいか、誰もここに来なくなってね。まあ、そのお陰で私達は毎回貸切状態でキャンプができるわけだし、これぐらいのことは許容しないと……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る