恥辱

「お願いします! どうか私にお金を貸してください!」


「そう簡単には貸せないな」


 資産家の俺の元に、1人の貧しい男が訪ねてきた。商売に失敗して金に困っているらしい。


 金なら腐るほどあるので、この男に金を貸すくらいどうってことないのだが、暇つぶしに少し遊んでやろうと思って、すぐには承知しなかった。


「お願いします! なんでもしますから!」


 そのうち男がそんな言ってきた。


「へぇ『なんでもする』か。じゃあ俺の靴を舐めてもらおうか」


 俺は革靴を履いた右足を男に差し出す。男は驚いていた。そりゃいい歳をした男が、他人の靴を舐めるなんて屈辱だろう。『なんでもやる』と言っていたが、流石にそこまでのことはできないか。


「え、いいんですか! わかりました! 靴を舐めさせていただきます!」


 予想に反して、男はすぐさま俺の革靴を舐め始めた。よっぽど切羽詰まっているのだろう。俺は男が靴を舐める様子を眺めて愉快な気分になっていた。


「もっとよく舐めろ! 靴の裏側もだ! 右だけじゃなくて左もだ!」


 男は俺の革靴を隈なく舐めている。全く無様な姿だ。しばらく眺めて愉しむことにしよう。




 そして、3時間後。男はまだ靴を舐め続けていた。何も言わなかったら一体いつまで続けるのか気になってあえて止めなかったが、この分だとずっと舐めていそうな気がする。


「あ、あのもう舐めなくてもいいぞ」


 俺がそういうと男が俺の方を向いて言う。


「え? いいんですか? 私としてはむしろもっと舐めていたいんですか……」


 俺は男の言葉を聞いて寒気がした。どうやらこいつは変態のマゾヒストだったらしい。


「いいからもうやめろ! 金ならやるから!」


 俺は小切手を男に叩きつけた。男はそれを拾って俺に頭を下げて礼を言った。


「あ、ありがとうございます! これでなんとかなりそうです! それにしても、あなたはなんと慈悲深い人だろう。お金を貸してくれるだけじゃなくて、こんなにおいしい革靴まで舐めさせていただけるなんて」


「『おいしい革靴』って、お前何を言ってるんだ」


「はい。この間食べるものがなくなって、仕方ないから自分の革靴を食ってみたんですがなかなかいい味だったんですよ。以来革靴は私の大好物で……」

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