恩と怨み
ある日、俺が公園を散歩をしていると、蜘蛛の巣に綺麗な蝶が捕まっているのを見つけた。かわいそうに思った俺は、蝶を蜘蛛の巣から救出して放してやった。
「もう捕まるんじゃないぞ」
空に飛んでいく蝶に向かって俺はそんな言葉をかけた。
その日の夜、俺の家に誰かが訪ねてきた。玄関のドアを開けると、そこには美しい女性が立っていた。
「だ、誰ですかあなたは?」
「私は今日あなたに助けてもらった蝶です。どうか恩返しをさせてください」
助けた蝶が美しい女性の姿になって恩返しに来るなんて、まさかこんなことが起こるとは。やはり良いことをすると良いことがあるんだな。
そんなことを思っていると、また誰かが家を訪ねてきた。いいところなのに、いったい誰だ。玄関のドアを開けると、また別の女性が立っていた。女性は怒鳴って言う。
「おい! 今日はよくもひどい目に合わせてくれたな!」
身に覚えのない俺は驚いて聞く。
「いったい何をしたって言うんです? あなたのことなんて全然知りませんよ」
「私はな、今日アンタに獲物を逃がされた蜘蛛だよ! おかげで腹ペコだよ! 何なら今からお前を食ってやろうか?」
弱った、まさか蜘蛛まで人の姿になってやってくるなんて。
俺が困っているとまた誰かが家にやってきた。
「おい、俺は今日お前が食べたマグロの夫だ。妻の仇を獲りに来た」
今日の昼飯に食べた鉄火丼のことだろうか。まさかこんなやつまでやってくるとは。さらに次々と家に色々なものが人間の姿で乗り込んでくる。
「俺はゴキブリだ。この間はよくも俺の兄弟たちを殺してくれたな!」
「私はこの家を建てるために切り倒された杉の化身だ! 絶対に許さんぞ!」
「ぼくたちはお前に食べられた稲の怨霊だ! ぼくたち全員の恨みを思い知れ!」
気が付いたら俺の周りは敵だらけになっていた。蝶だけが味方だが多勢に無勢。とても敵いそうにない。
まさか俺がこんなに大勢に恨まれていたとは思わなかった。でも考えてみれば人間なんて他の多くの生物の犠牲の上に生きている罪深い存在。売った恩より買った恨みのほうが多くて当然なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます