エイプリルフール

 今日はエイプリルフール。嘘をついてもいい日だ。と言っても俺はもういい歳だし、わざわざ嘘をつくつもりはない。エイプリルフールと言っても、俺にとってはただの平日の1日でしかないのだ。


 俺が朝起きてリビングへ行くと、家族がいない。いつもだったら妻がもう起きている時間なのに。不思議に思っているとテーブルに1通の手紙が置いてあった。読んでみると『あなたには愛想がつきました。実家に帰ります』と書かれていた。


「なんだ、エイプリルフールの嘘のつもりか。こんなバレバレの嘘に引っかかる俺じゃないぞ」


 俺はそう独り言を言ってから、朝食を用意して一人で食べた。手紙だけでなく姿まで消すとは凝った嘘だ。一体どこに隠れているのだろう。しかし、仕事にも行かないといけないので、俺は妻を探さずに家を出た。


 やがて、勤めている会社に着く。


「今日は年度初めだから、忙しいんだよな」


 そう思いながらオフィスに入ると、他の社員はみんなが大騒ぎしている。不思議に思っていると、俺を見つけて上司の部長が声をかけてきた。


「君、来たのかね。いいか、落ち着いてよく聞いてくれ。たった今この会社が倒産した」


 また嘘をつかれた。いくらエイプリルフールでも真面目な部長がこんな嘘をつくとは。俺が笑っていると「とりあえず、家に帰りなさい」と言われたので帰ることにした。有給が溜まっていたから消化しろということだろうか。俺は家に帰る。


 家に帰って1人でボッーとしていると、実家から電話があり、父が事故で亡くなったと母が言ったが「もっとうまい嘘をつきなよ」と言って電話を切った。


 いつの間にかもう夜だ。そろそろ寝よう。今日は色々な嘘をつかれた。明日になればエイプリルフールは終わり、全てが元通りのはず。


 そう、そのはずなのだ。


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