いのちの電話
俺は仕事のストレスで死にたいと考えている。今日も怒られながら深夜まで仕事をして、今やっと自宅に帰ってきたところだ。しかし、明日また仕事に行かなくてはならないと思うと「もう死んだほうがいいのではないか?」と考えてしまう。
そんな時、スーツのポケットに入れっぱなしにしていた、駅前で配られた一枚のビラのことを思い出した。取り出してみてみるとそこには「死にたい、生きるのが辛い。そんな時はコチラにお電話をお願いします」という文章と電話番号が書かれている。いわゆる「いのちの電話」というやつだ。
「どうせ死ぬならかけてみるか。一体どんな話をされるんだか」
俺がいのちの電話にかけてみると、すぐに電話の担当者が出た。女性の声だ。
「はいこちら『いのちの電話』です。本日はどうされましたか?」
俺は今まで会社で酷い待遇で働かされてきたことを説明し、最後に「だからもう死にたい」と付け加えた。
「それは大変でしたね。でも死ぬのはもったいないですよ。もう一度だけ頑張ってみませんか?」
担当の女性は俺の説明に、そんなつまらない返事をした。
「いや、もったいなくなんてありません。このまま生きていても辛いことばかりだから、もう生きるのはやめますよ」
俺はそう言い切った。すると、担当の女性は俺に色々と質問をしてきた。
「ところで聞きたいのですが、あなたは身体は健康ですか?」
「あ、はい。身体は自体は健康です」
「大きな病気や怪我をしたことは?」
「と、特にありません」
「歳はおいくつですか?」
「27歳ですが」
「住所はどちらですか?」
「えーっとA市のB町の……」
「血液型はなんですか?」
「A型です。あの、一体これなんの質問なんですか?」
奇妙な質問を繰り返す彼女を、俺は不審に思った。
「いえ、大したことではありません。では最後にお聞きしますが、あなたは『本当に死にたい』と思っているのですか?」
「ええ、もちろんそう思っています」
「わかりました。では少々お待ちください」
そう言って担当の女性は電話を切った。
「え、どういうことだ? 色々と質問だけされて、勝手に電話を切りやがった……くそ! あーあ、今日はもう死ぬ気にならないから寝るか」
そう思って俺が寝支度をしていると、突然インターホンが鳴った。
「こんな時間に一体……」
俺が恐る恐る玄関のドアを開けると、そこには屈強な身体の男性が4名ほど立っており、突然の俺の体を拘束し、外に連れ出した。
「た、助けてくれ!」
俺の必死の抵抗も虚しく、俺は車の中に押し込められ、そのまま連れ去られてしまった。
しばらくして、俺が連れてこられたのは大きな病院のような施設だった。
「お、俺をどうするつもりだ!」
俺が男達に聞くと、男達は表情も変えずに冷静に答えた。
「お前には死んでもらう。お前、死にたいって言ってただろ?」
「しかし、ただ死んでしまうのはもったいない。お前の身体は健康そのものだからな。だから死ぬ前にお前の身体の使える部分は使ってしまおうということだ」
「特に腎臓とかはいつでも需要があるが、供給はほとんどなくてな。それに最近は血液も足りてない、特に需要の多いA型のものはな。それに皮膚や四肢……全身余すとこなく使わせてもらうよ」
「文句はないよな? 死にたいと言ったのはお前なんだから、ただ死ぬだけじゃなくて最後に世のため人のためになるのも悪くないだろ? 限りある資源は有効に活用しないとな」
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