愛のマトリョーシカ

 私の友人がある時交通事故で恋人を失った。恋人のことを深く愛していた友人は嘆き悲しみ、仕事を休んで家に篭るようになってしまった。


 友人の恋人が亡くなってから、3ヶ月が経過したが、未だに仕事を休んでいるらしい。心配になって友人宅を訪ねてみると、なんと友人がナイフ使って自殺しようとしていた。私は必死に止める。


「よせ! 馬鹿な真似をするんじゃない!」


「止めないでくれ! 彼女がいないなんて、もう生きている意味なんてない!」


「君が彼女をどれほど愛していたかは知っている。だから悲しみもきっと私が想像できないくらい大きいことぐらい分かる。でも死んではダメだ」


「で、でも……」


「確かに彼女は死んでしまった。でも彼女は君の中で生きている。だから君も生きなくてはいけない」


 私がなんとか説得していると、友人も次第に落ち着きを取り戻してきた。


「取り乱してすまない。そうだな、君の言う通りだ。彼女は死んでしまったけど、僕の中で生きている。だからこそ……う、うぐぐぐぐ!」


 友人は急に苦しみ始めた。


「どうしたんだ! 大丈夫か!」


「わ、わからない! なぜか身体が張り裂けそうなほど痛くて……ぎゃああああああ!」


 友人は絶叫し、その瞬間彼の身体は縦半分真っ二つに裂けてしまった。


 驚くべきことはそれだけでなく、なんと裂けた友人の身体の中から、死んだはずの彼の恋人が出てきたのだ。


「な、なんで君がいるんだ? 死んだはずだろう?」


 驚きながら質問した私に彼女は答える。


「そう、私は死んだはずだったの。でもなぜか私は死んでからも彼の身体の中で生き続けていたみたい。それでやっと出られたのよ。それより彼は今どこ?」


 私は恐る恐る真っ二つになった彼の肉片を指差した。


「な、なんで? どうしてなの? やっと生き返ることができたのに、なんで貴方も死んじゃったの!」


 それは彼女が友人の身体から出てきたせいだ、とは私はとても言えなかった。恋人を失った彼女は嘆き悲しみ、近くにあったナイフを手に取る。


「あの人がいない世界に未練なんてない。もう私死ぬことにするわ」


 自殺を図ろうとする彼女を私は説得した。


「た、確かに彼は死んでしまったかもしれない。しかし、彼は君の中で生きているんだよ!」


「そうね。彼は私の中で生きているのね……う、うぐぐぐぐ! ぎゃああああああ!」


 落ち着いたかと思ったとたん、彼女は苦しみ出して絶叫。その瞬間彼女の身体は縦半分に真っ二つに裂け、中から友人が現れた。出てきた友人は裂けた彼女の遺体を見て、嘆き悲しんでいる。そしてまた自殺を図るのをまた私が止め、また身体が裂けてまた彼女が出てきた。それからずっとその繰り返しだ。


 一体私はどうすればいいのだろう。そもそもこの現象は一体なんなんだ。全然何にもわからない状況ではあったが「彼らが2人共生きた状態で再び出会うことできない」という悲しい事実だけはハッキリしているようだ。

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