自分探しの旅

「家に引きこもっていないで、自分探しの旅にでも出たらどうだ?」


 大学生活に馴染めず中退して、実家に数年間引きこもっていた俺に父はそんなこと言ってきた。


 それもそうだと思った俺は父の言う通りに自分探しの旅に出かけた。


 まず、自分を探すためにはどこに行けばいいかネットで調べると「過去に自分が訪れた場所」などがおすすめのようだ。


 俺は昔旅行に行った土地などを回ってみることにした。


 そして今、俺は昔家族旅行で行ったとある温泉地に来ている。そこで昼食をとるために食堂に入ると、店の人に奇妙な事を言われた。


「いらっしゃい。あ、今日も来てくれたんですね」


「え?」


 俺は今日ここに着いたばかりで、昨日この食堂に来たはずがない。詳しく聞いてみると、俺に非常によく似た人が昨日ここで食事をしていったそうだ。


「ありゃ似てるというより、ほぼ同一人物でしたよ。本当にあなたじゃないんですか?」


 そんなことも言われた。よっぽど似てたのだろう。


「もしかしたらソイツは俺が探している『自分』というやつではないのか?」


 そう考えた俺は聞き込みを開始した。すると「アンタを見た」という目撃情報が多くあり、徐々に「自分」の居場所が特定されていき、ついにある場所に辿り着いた。


「ここか。今日の昼ごろに俺が目撃された場所は」


 そこは町のはずれにある小さな神社。早速境内を歩き回ってみると、1人の男が立っていた。


「あの、すみません」


 声をかけると男は振り返る。その男の姿は俺と瓜二つだった。やっぱりこの男は「自分」だったらしい。


「やった! やっと『自分』を見つけることができたぞ!」


 俺が喜んでいると、男は首を傾げて不思議そうに呟く。


「おい、なんで喜んでいるんだよ。俺は『ドッペルゲンガー』だぞ」


「ああ、自分と同じ姿をしていて出会ってしまうと死んでしまうって言う……」


 そうか「自分」とは「ドッペルゲンガー」のことだったのか。そしてすぐに、俺は胸が急に苦しくなってきて、そのまま倒れて死んでしまった。


 死に際に、父の言葉を思い出す。


『家に引きこもっていないで、自分探しの旅にでも出たらどうだ?』


 ああ、あれはつまり暗に俺に「死ね」と言っていたの

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