あっという間に

 歳をとると時間が流れるのが早く感じると言われているが、俺は本当にそうだなと思っている。


 俺が時間が経つのは早いなと感じ始めたのは25歳の頃。大学を卒業してから22歳で就職して、あっという間に25歳だった。


「俺ももう25か。時が経つのはあっという間だな」


 そんなことを考えていると、あっという間に30歳になった。この時はかなり驚いた。だって「30歳なんてもうおっさんだ」と考えていたからだ。


「もう30歳とは……でも人生はこれからだし……」


 そんな言い訳をしている内に、あっという間に40歳だ。


「まさか、もう40歳とは……」


 40歳にもなると部下も増えるし、難しい仕事も任されるようになり、その分責任も大きくなる。毎日上司と部下に板挟みにされ、ストレスが溜まる日々。


「はぁ、毎日辛いな……もうさっさと退職したい。どうせならあっという間に定年の歳になってくれたらいいんだが……」


 そんなことを考えていると、本当にあっという間に定年の歳になり、長年勤めた職場を去った。いや、本当は長年勤めたという感覚はない。入社してから今までほんの4、5年くらいの出来事に感じでいるので、実際のところかなり困惑している。


「ま、まぁいいか。これでとりあえずのんびりできる。退職金も出たことだし、落ち着いたら旅行でも行こう」


 そんなことを考えてのんびりしていると、あっという間に寿命がきて、あっという間に俺は死んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る