七夕

 夜、私がベランダに出て星を眺めていると、妙な格好をした男性が空中に浮かんでいるのを発見した。


「ひ、人が浮いてる!」


 驚いている私に、男性は話しかけてきた。


「す、すみません。びっくりさせちゃって。僕は怪しい者じゃないんです」


「じゃあ一体あなたはなんなんですか?」


「実は僕『彦星』って言うんです。聞いたこと有りませんか?」


 それなら私でも知っている。年に1回、7月7日の七夕の日にだけ織姫様と会えるというあの彦星のことか。言われてみれば服装も髪型もそれらしい格好をしている。


「あなたが『彦星様』なんですか? でもどうしてこんなところに?」


「今年はここで織姫と会う約束をしてるんです。今日は七夕ですから」


 それを聞いて私は首を傾げる。


「七夕? 今日は七夕じゃ有りませんよ。今日は3月7日ですから」


「え! そうなんですか? しまった間違えた!」


 どうやら彦星様は本当の七夕よりも4ヶ月も早く待ち合わせ場所に来てしまったようだ。せっかちな人だな。まあ毎年織姫様に会うを楽しみにしているのだろうし、こういうこともあるんだろうな。


「し、しまった! どうしよう? どうしよう? どうしよう? 織姫に怒られる」


 なぜかわからないが、彦星様はだいぶ慌てている。なんで織姫様に怒られるのだろうか。


「あの、なんで織姫様に怒られるんですか? 別にちょっと早くきてしまっただけだし、何の問題も無いのでは?」


「違うんですよ……逆なんです」


「逆?」


「ええ。どうやら僕は8ヶ月も遅刻してしまったみたいなんです。ああ『七夕までまだまだだし昼寝でもしてよう』とか思ってのんびりしてたせいだ。どうしよう? 絶対に織姫怒ってる……怒られる、いや殺される……」

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