お袋
俺は高校を中退して以来、家の自室に引きこもっている。だが、何もしていないわけではない。俺は小説を書いてネットに公開している。その内誰かの目に留まり、大ヒットするに違いない、そう考えていた。
「クソ! 何で誰も俺の小説を読んでくれないんだよ! こんなに面白いのに!」
俺の小説の閲覧数は全く増えず、何のコメントも付かない。これは何かの間違いだ。きっとサイトのバグか何かだ。
「兵十郎君……たまには外に出てみない?」
俺が部屋で悩んでいると、お袋が声をかけてきた。俺はブチ切れる。
「うるせえ! 今俺は忙しいんだよ! さっさと出て行け!」
お袋は部屋を出ていった。
お袋はどうでもいい。小説のことを考えないと。きっとまだ知名度がないだけだ。読んでくれればみんなわかってくれるはず。俺はSNSなどを使い小説の宣伝をしたがあまり閲覧数は増えず、しかも「全然面白くない」というコメントが数個付いてしまった。
「何だよこのコメントは! 俺の小説の面白さがわからないなんて、お前らの読解力が無いだけだろバーカ!」
俺は部屋の壁をブン殴る。
「兵十郎君……お願いだから壁を叩くのはやめて……」
「うるせえ! 出て行け!」
お袋は部屋から出ていく。
「ふん! ま、俺は常人と考え方が違うからな。所詮凡人には俺の小説の良さなんてわからないのさ」
そう考えて、俺は小説を書き続けた。
しかし、ある時突然俺の小説の閲覧数が増えはじめた。それに伴い高評価が増え、さらにコメントも増えた。
「面白いです」
「いつも楽しみにしています」
「これからも頑張ってください」
そんな応援のコメントが定期的に付くようになった。
「やっと俺の才能が認められたのか。これで書籍化……アニメ化も間違いないな!」
しかし、数ヶ月後。俺の小説についていたコメントがピタリと止んでしまった。それに伴って閲覧数の激減。以前と同じようになってしまった。
「どういうことだよ! 何で誰も読んでくれなくなったんだよ!」
腹が立つ。腹が立ったら腹が減った。今日の飯はまだだろうか。いつもだったらお袋が飯を持ってきてくれる時間だが。
「おい! お袋! 飯はまだかよ! 聞こえてるのか……」
俺が大声で叫んでも何の反応もない。おかしい、これまでこんなことはなかったのに。
不思議に思った俺は部屋を出てお袋を探した。するとお袋が居間で倒れている。
「おい! どうしたんだよ! しっかりしろ! おい……あれ? こ、これは?」
今には身に覚えのないパソコンやスマホやタブレットなどが大量に置いてあった。どのディバイスも俺が小説を公開しているWEB小説サイトにログインされている。そしてお袋が最後に触っていたパソコンには俺の小説への応援コメントが書きかけになっていた。そこで初めて俺は気がついた。
「お袋! お前だったのか! いつも応援コメントや高評価をくれたのは! こんなに大量のアカウントを作ってまで……」
俺は母の子に対する愛情の深さに胸を打たれ、大いに泣いた。
まあそれはそれとして、お袋が亡くなったことで、お袋が加入していた生命保険の保険金を受け取ることができた。とりあえずこの金で豪遊しよう。こんなことしてたら将来困ることになるかもしれないが、それはその時になって考えればいいや。
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