死にたい

「死にたい」


 日頃そんな言葉を口癖のように呟いて過ごしていた俺は、その日遂に自殺を決意した。


「ああ、死にたい。長い間我慢してあのひどい職場で働いてきたけどもう限界だ。だけど今更新しい仕事を探す気力もない。もう人生に疲れた、死んで楽になろう……」


 俺はとある種類の睡眠薬を用意した。この睡眠薬は一度に大量に摂取すると眠ったようにあの世に行けるらしい。俺は水と一緒に睡眠薬を一気に飲み干す。しばらくして眠気が襲ってきてそのまま意識を失った。


 数時間後、俺は目を覚ました。


「あれ? なんで俺生きてるんだ?」


 俺は死ぬどころか全く体調も悪くない。睡眠薬が悪かったのだろうか?


「仕方ない、次の方法を試そう」


 俺は次に飛び降り自殺を図った。高層マンションの屋上から俺は飛び降りた。俺は地面に激突し、そのまま意識がなくなった。


 数時間後、目を覚ますと俺は地面に寝転がっていた。周りを見てみるとさっき飛び降りた高層マンションの近く。確かに飛び降りたはずなのに、なんで俺は生きているのだろう? 夢でも見ていたのだろうか。とりあえず飛び降り自殺はやめることにした。


 今度は首吊り自殺を図った。近所の公園の近くにある林に行って、手頃な木を見つけてロープを枝に付けて首を吊る。しかし、一向に死ねなかった。俺は木の枝に何時間もぶら下がっていたが、やがて諦めて下に降りた。どうなっているのだろう? 俺はだんだん気味が悪くなってきた。


 最後に俺はカッターナイフで手首を切ってみた。切り口から大量の血が流れ、ちゃんと痛みは感じる。本当はあんまり痛い死に方はしたくなかったが仕方ない。これなら間違いなく死ぬはずだ。しかし、しばらくすると流血は止まってしまった。それどころかみるみるうちに手首の傷口が塞がっていく。


 ここにきてようやく確信したが、どうやら俺は死ぬことができない身体らしい。今まで死んだことがなので気が付かなかったが、そういうことなのだろう。


「ああ、死にたい。本当に死にたい」


 その後、俺は以前にも増して「死にたい、死にたい」と呟きながら、死ねずに生きていくことになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る