ネタ切れ

 私は作家をしている。連載中の作品の締め切りがもうすぐなのに、何を書いたらいいのか何も思いつかない。


「あーあ、何かネタになるような面白いことが起こらないかな……」


 自室でそんな独り言を呟いていると、インターホンが鳴る。誰かが来たようだ。


「誰だろう? 何かを注文した覚えはないし……」


 私が玄関のドアを開けると、人がいた。いや、正確には人のような何かだ。肌の色が青いし、全身の毛がなく、目は普通の人間の何十倍も大きい。


「だ、誰だアンタは!」


「た、助けてクダサイ……」


 青い肌の人は弱々しい声で言った。今にも倒れそうだ。


「おい! 大丈夫か? しっかりしろ!」


「わ、ワタシは別の星から逃げてきたモノです。アイツらに追われて……」


 別の星から来たということは、この青い人は宇宙人なのか。それにしても「アイツら」とは誰のことだろう。



「とうとうミツケたぞ! 覚悟シロ!」


 今度は赤い肌をした人が玄関にやってきた。言動から察するにどうやら青い人を捕まえにきた人らしい。


「た、助けてクレ……」


「問答無ヨウ! くらエ!」


 赤い人は拳銃のようなものを構えて、引き金を引いた。すると黄色い光線のようなものが発射され、青い人に当たる。


「ぎゃあアアア!」


 青い人は悲鳴を上げて、そのまま倒れてしまった。


「お、おい! しっかりしろ! アンタたち! 何も殺すことはないだろ! この青い人が何をしたっていうんだ!」


 俺が抗議すると赤い人は溜息をついて言う。


「殺してはイナイ。少し眠っているダケだ。ワタシは警察だ。コイツはウチの星で食い逃げヲしてな、逃走してこんなトコロまで逃げてキタというワケだ」


「はぁ? 食い逃げで? そんなことで別の星から逃げて来たんですか?」


「そうダ。お騒ガセしてスマナかった。ホラ、行クぞ!」


 青い人は赤い人に連れられて行ってしまった。


「はぁ、何か色々あって驚いたな。でも面白い経験ができてよかった。早速これをネタにして書こう」


 私はさっきの出来事を文章にして、編集部へ送った。


 しかし、しばらくして担当編集から電話があり、こっぴどく叱られてしまった。


「何を考えてるんですか! こんなめちゃくちゃな話を送ってきて! 読者を舐めてるんですか? あなたが今連載しているのは『エッセイ』でしょ? いつからSF小説を連載しだしたんですか?」


「いや、それは本当にあったことで……」


「そんな言い訳通ると思っているんですか!」


 そう、私は今エッセイを書いているのだ。しかし、連載が続くにつれて書くネタがなくなって困っていたところだったのだ。そんな時、あんな出来事が起こったので丁度いいと思ったのだけど、やはりダメだったか。


 担当編集との電話を終えて、私はまた呟く。


「あーあ、何かネタになるような面白いことが起こらないかな……なるべく常識の範囲内で」

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