オタサーの姫

 大学生になった私はオタクサークルに入りオタサーの姫になることを企んでいる。


 オタサーの姫とは男性ばかりが集まりがちなオタク系サークルに所属し、お姫様のような扱いを受けている女性のことだ。


 中学校、高校と彼氏もおらず友だちもほどんどいなかった私は人に注目されることなく、家でこっそりと深夜アニメを鑑賞する静かなオタクとして生きてきた。


 しかし、大学生からは違う。オタクサークルに入ればオタクであることを堂々とカミングアウトできるし、女ならみんながチヤホヤしてくれるに違いない。


「よし、絶対に『オタサーの姫』になってやるぞ!」


 お昼休み、私はそう意気込んで、オタクサークルのメンバーが集まっているという教室へと入った。


「すみませーん……あれ?」


 私は教室に入って固まった。てっきり男性ばかりだと思っていたのに、教室にいたのはかわいい女の子だけ。女の子たちは私に話しかけてくる。


「あら? だーれあなた?」


「きゃーかわいい! 1年生?」


「そんなところにいないでこっちにいらっしゃい」


 みんな派手に髪を染めたり化粧をしているし全くオタクには見えない。どういうことだろう。


「あの、ここオタクサークルですよね?」


 私が質問すると彼女たちは笑って答える。


「えー違うよー」


「ここはお姫様みたいなかわいい女の子が集まる『お姫様サークル』だよー」


「略して『姫サー』」


 なんだって、まさか「オタサー」と「姫サー」を間違えてしまうとは。とにかくこんなところは場違いだ。さっさと退散しよう。


 しかし、姫サーのメンバーの1人が私の腕をつかんで言う。


「ねぇねぇ? あなたオタクなの?」


「あたしオタク初めて見たー」


「ねぇなんか話してよー」


 ま、まずい。この姫サーの人たち凄くグイグイくる。勢いに押された私は逃げることができず、とりあえず今ハマっている深夜アニメについて話すとみんな興味津々で聞いてくれた。


「えーすごく面白そう!」


「ねー今度一緒に見ようね」


「きみいろんなこと知ってるんだね。すごーい」


 なんだこれ、すごく気分が良い。みんな私みたいな地味なオタクの言うことをちゃんと聞いてくれるし、オタクだからって馬鹿にしてこない。もうオタサーの姫とかどうでもいい。ここに入ることにしよう。


 そういうわけで私はお姫様サークルに入った。みんなはサークルで唯一オタクな私を可愛がり、色々なオシャレな服を着せてくれたり、メイクをしてくれたりしてくれる。


 こうして私は「姫サーのオタ」として可愛い女の子に囲まれてながら幸せなキャンパスライフを満喫している。

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