タイムリミット

 小説家である俺は作家人生最大の危機に直面していた。明日が〆切なのに一文字も原稿を書けてないのだ。


「『〆切まで1ヶ月もあるから余裕だ』とか思っていて油断した。できることなら1ヶ月前に戻りたい。どうしようどうしようどうしよう」


 そんなことを言いながら俺は自室で悩んでいたが、いつの間にか趣味の機械いじりをしていた。


「しまった。こんな事をしている場合じゃないのに。しかし、やらなくてはならないことがあるときに限ってなんだか機械工作が上手くいくような気がする……あ、できた」


 俺は長年趣味で作っていたタイムマシンを完成させてしまった。こんなものを作っている場合じゃないのに。


「ん、待てよ? これを使えば過去に戻れる。1ヶ月前に戻ればまた1ヶ月間〆切を伸ばせるぞ。よし、過去に出発だ!」


 俺はタイムマシンを起動させ、1ヶ月前へ戻った。




「よし、上手くいったな。これで〆切が延び……」


「おい! 誰だお前……ってなんで俺がもう1人居るんだ!」


 俺に話しかけてきたのは、1ヶ月前の俺自身だった。しまった、1ヶ月前の自分の事をすっかり忘れていた。同じ時代に2人自分がいるのは不都合だ。コイツには消えてもらうしかない。


「うるせえ! 死にやがれ!」


 俺は近くに置いてあった辞書の角で過去の俺の頭をぶん殴った。当たりどころが良かったのか、過去の俺はそのまま倒れ、そのまま死んでしまった。


 もちろん過去の自分を殺した事で俺自身もそのまま跡形もなく消滅してしまった。

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