かさじぞう
「やはりダメだったか。今日は大晦日だっていうのに、来年も最低な年になりそうだ」
会社の経営に失敗をした私は金策のため、年末にもかかわらずあちこちを走り回ったがうまくいかなかった。
そもそも会社の経営が悪化した原因は、私が友人の借金の連帯保証人になったせいだ。その友人が夜逃げしたせいで私は借金の肩代わりをする羽目になり、会社の運営資金が底をついたのだ。
「連帯保証人になんてなるんじゃなかった。そのせいで会社は倒産寸前だし、妻は愛想尽かして出て行ってしまった。昔から『お人好しも過ぎると碌なことにならないぞ』とよく言われていたが、今回のことでよく思い知ったよ。とほほ」
大雪が降る中、トボトボと歩いていると私は何かにぶつかってしまった。
「イテテ、ついてないな。何だこれは?」
私がぶつかったものをよく見てみると、お地蔵様だった。雪が積もって隠れていたようだ。
「こんなに雪に埋もれて、可哀想なお地蔵様だ。よし」
私はお地蔵様の雪をはらって、持っていた傘を開いたまま、お地蔵様に被せるように置いた。
「これでよし。じゃあ行くか」
たかが道端のお地蔵様にここまでする必要はないとは思ったけど、雪に埋もれているお地蔵様を見ていると放っておけなかった。私はやはり相当のお人好しらしい。
そして、その日の夜。家のインターホンが鳴った。玄関に出ると傘を刺した男性が1人立っている。
「あの、誰ですかあなたは?」
俺が尋ねると男性は答える。
「今日の昼傘を置いていってくれたのはあなただね? 私はあの時の地蔵だ」
なんとこの男性の正体はあの地蔵らしい。まるで昔話の「かさじぞう」みたいな話だ。恩返しにでもきたのだろうか。
「え!? そ、そうなんですね……」
「あの時はありがとう。感謝します。ところであなたにお願いがあるのですか。ちょっと家の中に入れてもらえませんか?」
「あ、はい。いいですけど」
「よし。おーい! みんなも入って来い!」
男性の声を合図にして、ゾロゾロと人が私の家に入ってきた。その数は元々いた男性を含めて6名。
「すまないが地蔵仲間と一緒に家で休ませてくれないか? 大雪が降っていることだし」
「いや、いいですけど」
私が困惑していると、家の中から騒がしい声がする。
「おーい! 客が来ているのに茶も出さんのか!」
「こっちは酒だ! 酒!」
「つまみも用意しろよ!」
「さっさとしろ! わしらを誰だと思ってるんだ!」
「早くしないと天罰を与えるぞ!」
家の中にズカズカと入った地蔵たちは、口々に好き勝手なことを言っている。
私は地蔵たちに逆らうこともできず、大雪が降る中、酒とつまみを買うために外に飛び出した。
トホホ、なんてことだ。こんなことならお地蔵様のなんて助けるんじゃなかったよ。
「お人好しが過ぎると碌なことにならない」
あらためてそう思い知った、そんな年末の出来事だった。
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