ハゲと炭酸飲料
俺は学校の帰りに自販機で飲み物自販機で買って飲んだ。
「いやーこの炭酸飲料うまいな。ハマっちゃったよ」
買ったのはひと月ほど前に発売された炭酸飲料。俺はこれを気に入っていて、最近毎日飲んでいる。そんな時、突然後ろから声をかけられた。
「おい! そこのお前! それを飲むのをやめろ!」
振り返るとハゲたおっさんが立っている。
「だ、誰ですかあなたは?」
「そんなことどうでもいい! これ以上その炭酸飲料を飲むのはよせ!」
俺の質問に答えず、おっさんは同じような言葉を繰り返す。どうやらおっさんは俺にこの炭酸飲料を飲むのを辞めさせたいようだ。
「嫌だよ! 何でそんなこと命令されなきゃならねえんだよ!」
ムカついた俺は大声で怒鳴る。しかし、おっさんは怯むことなく俺に近づいてくる。
「うるさい! 飲むなこんなもの!」
おっさんは俺の手から炭酸飲料の入ったペットボトルを奪い取り、中身を地面へ流し捨てた。
「何するんだよ!」
「これでいいんだ! わかったら二度とこれを飲むなよ!」
おっさんはそう言って去っていった。
「何だったんだ? あのハゲのおっさんは」
ただの頭のおかしい人だったのだろうか。それにしても何であの炭酸飲料を目の敵にしているのだろうか。
「まあいいか。また買って飲もう」
おっさんの言葉は気になったが、俺はまた自販機で例の炭酸飲料を買った。早速蓋を開けて飲もうとした、その時だった。
「この野郎! また買いやがったな! ふざけるな! 飲むなってあれほど言っただろうが!」
「え!?」
またあのハゲのおっさんが現れた。どうやら俺を見張っていたようだ。
「これ以上それを飲むな! 絶対にだ!」
「うるせーよ! 何を飲もうが俺の勝手だろうが!」
おっさんに腹を立てた俺は反論すると、おっさんはさらにキレた。
「いくら言っても聞かないなら……殺してやる!」
おっさんは懐からナイフを取り出して、俺に突きつけてきた。
「ひぃ!」
俺は全速力で逃げる。しかし、おっさんは追いかけてきた。
「待てこの野郎!」
「助けてくれ!」
必死に逃げた俺だが、うっかり行き止まりに来てしまった。もう逃げられない。
「追い詰めたぞ!」
「た、助けて!」
「助けて欲しいのか? なら話は簡単だ! あの炭酸飲料をもう二度と飲まないと誓え!」
「わ、わかりました! もう二度と飲みません!」
「本当にわかっているのか!? 二度と、飲まない! 絶対だぞ! 固く誓え!」
「わかりました! 二度と! 二度と飲みませんから! だから命だけは助けてください! 誓います! 固く誓います!」
その時、不思議なことが起こった。おっさんのツルツルのハゲ頭に、何と突然髪の毛が大量に生え始めたのだ。
「ど、どうなってるんだ?」
俺が呆気に取られていると、おっさんは懐から手鏡を取り出し、自分の頭の様子を確認して大喜び。
「やったー! 遂にやったぞ! ありがとう! よく炭酸飲料を飲まないと誓ってくれた!」
一体何がどうなっているんだろうか。今まであれほど怒っていたおっさんは上機嫌になり、俺にお礼を言ってきた。
「は、はぁ……」
「じゃあ俺は帰るわ! じゃあな! 二度とあの炭酸飲料は飲まないでくれよ!」
そう言い残しておっさんは消えてしまった。一体あのおっさんは何者だったんだろう。
その後、俺は例の炭酸飲料を飲むことはなくなった。飲みたい気持ちがないわけでもないけど、あのおっさんに襲われた時のことを思い出すと、飲む気が失せる。それにあそこまで「飲むな」と念を押されのも気になったからだ。
それから10年ほど経って、あるニュースが世間を賑わせた。例の炭酸飲料にある副作用があることが判明したのだ。少し接種する分には問題ないが、長期間大量に飲むと頭皮の毛根に異常をきたし、髪が抜け落ちてしまうのだと言う。
実際に毎日飲んでいた男性が、まだ20代の後半にも関わらず、ほぼ全ての髪の毛を失ったという事例も出ていた。
ここで俺はやっとあのおっさんの正体に気がついたのだった。きっとあのハゲたおっさんは未来から来た……
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