ホワイトクリスマス

 今日はクリスマスイブ。私は付き合い始めたばかりの彼氏と初めてのクリスマスデートをする予定だ。


 出かける前に天気予報を調べる。どうやら今日と明日は晴れらしい。晴れなのはいいけど、どうせならホワイトクリスマスがよかったな。せっかく彼氏との初めてのクリスマスだから、ロマンチックな雰囲気の中で過ごしたい。


「お願いします、神様。どうか私たちにホワイトクリスマスをプレゼントしてください……なんてね」


 そんなことを願いながら、私は彼氏との待ち合わせ場所に向かった。


 

 待ち合わせ場所の駅前に着いた。もう彼氏は待っていた。


「もう来てたんだ。待たせてごめん」


「いや、俺が早く来過ぎたんだ。楽しみだったからさ」


「わ、私も楽しみだったよ。あなたと一緒の初めてのクリスマスだから……」


 そんな時、周りの人たちが騒めいた。


「あれ、雪じゃないか」


「本当だ。白いものが降っている」


 私と彼が空を見上げると、確かに雪が降っていた。


「ホワイトクリスマスだね」


「うん……」


 今日はきっと一生忘れられないクリスマスイブになりそう。私は手のひらに積もった雪を眺めながら、そう考えていた。





 あれ、何かがおかしい。手のひらにこんなに雪が積もるなんておかしい。普通手に触れた雪は体温ですぐ溶けるものなのに、一向に溶ける気配はなく、雪はどんどん手のひらに積もってゆく。


「これは一体?」


 私が困惑していると、彼氏が雪をひとつまみ口に運び、大声を上げた。


「こ、これは雪じゃない! 塩だよ塩!」


「塩!?」


 私もひとつまみ口に含むと、確かに塩辛い。間違いなくこれは塩だ。


 塩はさらに勢いよく降り注いてくる。私たちだけでなく周りの人たちも騒ぎ始めた。


「し、塩だ! なんで塩が降ってくるんだ!」


「うわああ! 目が! 目に塩が入った! 染みる!」


「に、逃げろ! みんな塩から逃げろ!」


 町中が大パニックだ。



 よく考えてみると、さっき私が神様に「ホワイトクリスマスをプレゼントして欲しい」と願ったけど「雪が降って欲しい」とは願っていない。雪の代わりに塩とはいえ、これもこれでホワイトクリスマスと言えなくもない。この騒動は適当に神様にお願いをした私のせいかもしれない。


 その後塩は日本各地で降り続け、25日のクリスマスの夜にやっと止んだ。


 降り注いだ大量の塩は、町中を汚しただけでなく、全国の農地をダメにしてしまい、元に戻すためにかなりの費用と期間が必要になるそうだ。これら一連の事件は後に「死のホワイトクリスマス」と呼ばれ語り継がれることになる。


 私が気まぐれに願った「ホワイトクリスマス」によってこんな大惨事を引き起こすことになるとは、本当に申し訳ない。




 そして、事件のせいでクリスマスデートが中止になった私たちは、その後気まずくなり別れることなってしまった。ホワイトクリスマスなんてもう懲り懲りだ、トホホ。

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