小人

 最近肛門が痒い。正確には痛痒いといった感じで、時々尻穴がムズムズする。


「どうしたんだろう。炎症でも起こしているのかな」


 俺は鏡を使って自分の尻を見てみることにした。すると、尻に不思議なものがあるのを発見した。


 なんと、門があるのだ。もちろん門と言っても肛門のことではなく、家の入り口にあるあの門のことだ。肛門の前に小さいけれど立派な門がいつの間にか建築されていた。


「一体どういうことだよ、これ」


 俺が驚いていると、また肛門がムズムズしてきた。鏡で肛門の様子をさらに観察すると、なんと肛門前の門から人が出てくるではないか。その人は肛門に設置された門から出てくるくらいだから身体は小さく、小人と言っていい大きさだった。


 俺は小人を指で掴む。小人は驚いて悲鳴を上げる。


「ヒエ、タスケテ!」


 するとまた肛門がムズムズする。足元を見るとまた別の小人が2人いる。


「ダイジョウブ?」


「オネガイシマス! ハナシテクダサイ!」


 2人の小人がそう言うものだから、とりあえず俺は掴んでいた小人を足元に置いた。それから3人の小人を問いただす。


「おい、お前ら俺の肛門で何してた? あの門作ったのもお前らだろ?」


 小人たちは申し訳なさそうに話し始めた。


「ハイ、ジツハアナタノコウモンニスンデイマシタ」


「トッテモイゴコチガヨカッタノデ」


「カッテニモンマデツクッテスミマセンデシタ!」


 驚いた。この小人たちは俺の尻を住処にしていたようだ。


「勝手なことしやがって。時々肛門が疼いていたのはお前らが出入りしてたからか。迷惑だから、さっさと出ていってくれよ」


 俺がそう言うと、小人たちはまた悲鳴を上げた。


「ソ、ソンナ! オネガイダカライサセテクダサイ! モチロンタダトハイイマセン!」


「レイノモノヲモッテキテクレ!」


「ワカッタ!」


 小人の1人がまた肛門に入ったかと思うと、またすぐに何かを抱えて戻ってきた。よく見ると結構な大きさの綺麗な宝石だった。


「コレハヤチンデス。コレデシバラクオイテイタダケマセンカ?」


 自分の肛門から出てきたものだと考えると微妙な気持ちだが、一応価値があるもののようだ。


「わかった。しばらくいていいよ」


 小人たちは歓声を上げた。


「アリガトウゴサイマス!」


「ワーイ!」


「ヤッタ!」


 そう言うわけで俺の肛門の中で小人たちが暮らすようになった。


 それから三日程経って気がついたが、大便をしたくなったらどうすればいいのだろうか。小人に聞いてみると「大便なら僕たちが畑の肥料として使っているので、もう出さなくても大丈夫ですよ」というようなことを言われた。なんだそういうことかと安心すると同時に「人の身体の中に勝手に畑を作るな」とも思ったが黙っておいた。貰った宝石が高く売れたので、機嫌がよかったからだ。



 そして、しばらく経ってから、今度は肛門ではなく鼻がムズムズしてきた。ティッシュで鼻を噛んでみると、鼻の中から何かが出てきた。小人である。


「おい! お前は誰だ! 肛門に住んでるやつとは違うやつだろ!」


 俺が問い詰めると、小人は答える。


「ヒエ! アイツラカライイトコロガアルッテキイテヒッコシテキタンダヨ!」



 鼻の穴を鏡でよく見てみると、門ができていた。


「くそ、あいつら勝手に住民を増やしやがって!」


 また、今度は耳から小人が出て来た。しかも両耳からだ。いつの間にか俺の身体中に小人の出入り口ができているようだった。さらに小人たちは人数が増えたことで次第に態度も大きくなっていった。


 腋に住んでいる小人「あまり腕を動かすな」と文句を言われたり、耳に住んでいる小人は毎晩深夜にパーティーを開くせいでうるさくて眠れなくなった。



「お前ら出て行けよ!」


 ついに我慢の限界を迎えた俺は、そう叫んだが小人たちは余裕のある態度。


「デテイクモンカ!」


「ソーダソーダ!」


「オレタチヲムリヤリオイダシタラ、アンタシヌコトニナルゼ」


「死ぬ? 一体どう言う……う、苦しい……」


 急に心臓の辺りが痛み出した。小人は勝ち誇って言う。


「アッハッハ! オマエサンノシンゾウニチョットサイクヲサセテモラッタヨ! ソノキニナレバイマスグニデモシンゾウヲハレツサセルコトモデキルノサ! オマエヲイカスモコロスモオレタチシダイダ!」


「く、くそう……」


 いつの間にか俺の身体は小人たちに改造されていたらしい。


 最早俺の身体は俺の身体ではなく、小人たちのアパートと化してしまった。


 あの時、肛門への滞在を許したばかりに、こんなことになってしまった。


「庇を貸して母屋を取られる」とはこういうことを言うんだろうな、とほほ。

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