カブトムシ

 ある日の夕方、私の娘が泣きながら帰ってきた。


「どうしたの? 学校で何かあった?」


 私が聞くと、娘は涙声で話し始めた。


「みんながね、私のこと変だって言うの。私が『カブトムシが好き』って言ったら、みんな驚いて『変だよ』とか『そんなの普通じゃない』とか言ってくるの。ねえママ、カブトムシが好きってそんなに変なことなの?」


 そう言って泣きじゃくる娘の頭を撫でながら、私は答える。


「全然変じゃないよ。好きなものは人それぞれなんだから、普通とか変だとか、そういうのは無いのよ」


「本当?」


「本当よ。好きなものははっきりと好きって言っていいのよ。『変かも?』とか『人に合わせないと』とか考えて好きなものを好きって言えないなんて悲しいわ」


「そうなのかな?」


「そうよ、だから元気出して。今日の夕食はあなたの好きな『カブトムシの天ぷら』を作ってあげるから」


「え、本当? わーい、ママありがとう!」


 娘にようやく笑顔が戻った。


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