鯉の恩返し

俺はある日、自宅の近くにある公園に来ていた。


 公園には大きな池がある。池には色とりどりの鯉が泳いでいて、時々水面に顔を出して口をパクパク動かしている。そんな様子を眺めていると、突然金色の大きな鯉が高く飛び跳ねた。しかし、勢い良く跳ねすぎたため、池から出てしまい鯉は地面に落下してしまった。地面に落ちた鯉は、まだピチピチと動いていたが、このままでは死んでしまうだろう。俺は金色の鯉を池に戻してやった。


 すると、助けた鯉が水面から顔を出して、なんと俺に向かって話始めた。


「ありがとうございます。親切な人間さん。このお礼は必ずします」


 そう言い残して、鯉は池に潜って消えてしまった。


 鯉がしゃべるなんて驚いた。不思議なこともあるもんだ。もしかしたら鶴の恩返しの鶴みたいに家に恩返しにやってくるかもしれない。


 そんなことを思いながら俺は自宅へと帰った。




 その日の夜、俺の家の玄関のドアを叩く音がした。俺は不思議に思った。普通の客ならドアを叩く前に、まずインターホンを鳴らすはずだ。


「もしかして、今日助けた鯉が恩返しに来たのか?」


 そんなことをひそかに期待して、おれは玄関のドアを開けた。しかし、玄関には誰もいない。


「なんだ、気のせいか」


 俺がドアを閉めようとすると、足元からかすかに声がした。


「わ、私です。今日助けてもらった鯉です……」


 足元に目をやると、なんと今日助けた金色の鯉が、ぐったりと倒れていたのだ。


「大丈夫か? いったいどうしたんだ!」


 俺が聞くと、鯉は涙声で答える。


「す、すみません。今日の恩を返そうと思って、あのあと直ぐこちらに向かったんですが跳ねながらだと時間がかかってこんなに遅くなっちゃったんです。鶴みたいに人間の姿にでもなれたらよかったんですが、何分私鯉なもんで……」


 なんて健気な鯉だろう。俺は鯉を抱きかかえた。


「もうしゃべるな。すぐに公園の池へ戻してやるからな!」


「いえ、もう手遅れなようです。すみません、何の恩返しもできなくて……さようなら……」


「鯉ー!!」


 俺の手の中で鯉は息絶え、俺の叫び声が町中に響き渡った。

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