百合営業
私の名前は黄瀬ヒカリ、アイドルだ。同じに事務所に所属するアイドル、白石リリと共に『ホイップ&カスタード』という2人組ユニットで活動している。
しかし、残念ながら私たちは全く売れていないので、このままでは解散してしまう可能性もある。
さらに悪いことに相方のリリちゃんとの仲が、最近かなりギクシャクしている。元々同じ事務所の同い年でそれなりに仲がよかったのに、あまりにも売れていないせいか、リリちゃんの態度が前より冷たくなった気がする。そうなるとたまにある仕事でも、2人の息が合わず失敗して、さらに仕事が減るという悪循環に陥っている。
「ねぇヒカリ、話があるんだけど」
ある日、事務所で私とリリちゃんが2人きりになった時、彼女が急に口を開いた。最近では雑談もろくにしてなかったのに、もしかして……
「ま、まさか解散しようなんていうんじゃ無いよね! いや、もうちょっとだけ頑張ってみようよ!」
リリちゃんはため息をついて首を振ってから答える。
「そうじゃなくて、そうならないためにこれからどうやっていくかって話なんだけど」
私はひとまず安心した。
「な、なんだびっくりした。でも何をすればいいんだろう?」
「私達は知名度が圧倒的に低いから、まず名前を知ってもらえるようにしないと。そのためには……」
「何かいい方法あるの?」
「百合営業よ」
リリちゃんは得意げに言った。
「百合営業ってあれでしょ。女の子同士でイチャイチャしている様子をファンに見せるっていう……」
「そう! 私達でそんな感じの写真や動画を撮ってSNSでアップしまくったら評判になるかもしれないでしょ? それに……」
「それに?」
「何というか私達最近ギクシャクしてるし、できるだけ仲良しな様子をみせた方がファンのためにもなるんじゃ無いかと思って……」
それもそうだ。ていうかリリちゃんも気にしてたんだな。
そういうわけで私達の百合営業が始まった。
はじめに、カップに入っているアイスをお互いにスプーンで食べさせ合っている様子を写真に撮ってSNSに投稿してみた。
「こんなの投稿して反応あるのかな?」
「……なんかすごいバズってるわ」
「嘘!?」
私達の投稿した写真はSNSで拡散されていき、評判になった。多くのコメントをもらうことでき、その中でも「このアイドルユニット知らなかったけど、これから推していきます」と言った内容が多かったので、嬉しかった。百合営業ってすごい。
その後も、百合営業写真の投稿は続いた。「百合営業するならプライベートでも仲良くしなければならない」とリリちゃんが言うので、私達は休日お揃いの服を着て出かけて写真を撮って投稿した。
ある雨の日はリリちゃんが傘を持ってきて相合傘しようと言ってきた。こんな限定的なシチュレーションを見逃さないリリちゃんはさすがだと思った。この写真は特に評判が良く、ファンから「尊い」「エモい」と言ったコメントを多くもらった。正直意味がよくわからなかったけど。
SNSの評判のおかげで私達のユニットの知名度は上がり、仕事も増えてきた。しかし、リリちゃんが言うにはまだまだらしい。もっと百合営業をしなくちゃならないそうだ。
リリちゃんはよく私に抱きついてくるようになった。百合営業だから仕方ないらしい。
ある泊りがけのロケの時は何故か私達はホテルで同室で、一緒にお風呂に入って同じベッドで寝たりした。百合営業のためには仕方ないのだ。
ある日、事務所で2人きりになった私達はキスをしていた。これも百合営業の一環なのだとリリちゃんは言う。
「やっぱり女の子同士でキスなんて変だよ……」
私が言うとリリちゃんが首を振る。
「甘いわ。百合営業にやりすぎなんで無い。これでいいの。百合営業だから仕方ないから……」
そうか百合営業なら仕方ないんだ。百合営業なら仕方ない。仕方ないんだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます