一瞬の閃光

 俺が大学生だった時、サークルで知り合った一学年上の先輩がいた。


 ある時、その先輩がA国という日本ではあまり知られていない小さな国へ旅行へ行くことになった。


「退屈時間で長い人生より、俺は一瞬でもいいから刺激的な人生の方がいいと思ってるんだよね。だから今回の海外旅行で大暴れして爪痕を残してこようと思うんだよ」


「あんまり無茶しないでくださいよ先輩」


 先輩が行こうとしている国は法律が厳しくて、観光客が少しはめを外しただけで重い刑罰を受けたというネットの記事を見たことがある。俺は心配だった。


「『無茶するな』だって? 約束はできないな。もしかしたら死刑にでもなるかもしれないけど、まあそれもいいだろう。瞬間的で刺激的で俺の生き様にあってるからな」


 そう言って旅立った先輩は、本当に無茶をやった。人通りの多い駅前の広場で裸になって大暴れしたそうだ。当然先輩は逮捕され、それは日本でもニュースになった。


 そのニュースを見て知ったことが2つある。


1つ目はA国には死刑がないということだ。これで少なくとも先輩は刑罰で死ぬことはない。







そして2つ目は、裁判の結果先輩はA国の刑務所で50000年服役することになった。死刑がないと言っても法律は厳しいのだ。


 あれから20年経ったが先輩は当然日本に戻ってきていない。多分一生A国の刑務所で暮らすことになるのだろうが、先輩の望んでいた刺激的な人生を送っていることだろう。瞬間的とは程遠いが。

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