絶滅危惧種
ある日の夜、俺が1日の仕事を終え帰宅する途中、道端に学校の制服を着た女の子が倒れているのを発見した。
「おい! 大丈夫か?」
俺が声をかけても返事をしないので、死んでしまっているのではないかと疑い、彼女の手を取り脈を測ってみるとちゃんと動いていた。
「よかった、生きてる」
俺がそう安心したのも束の間、少女が突然起き上がったかと思うと、俺の股間に蹴りを入れたのだ。
悶絶し、地面をのたうち回る俺に対して、少女はさらに蹴りを入れながら罵声を浴びせてきた。
「この変態! 人が気を失っている時にどこ触ってんのよ! スケベ! エロ親父!」
そんなのは誤解だ。脈を測っていただけで変なところは触ってない。
「いや、違……」
「あん!? なんか文句あるの!?」
誤解を解こうとした俺を睨んで威圧する少女。なんて娘だ。対して人の話も聞かずに、自分の勘違いで赤の他人をこんなに力一杯蹴るなんて、常識が無いにも程がある。しかし股間の痛みが治らない俺は身動きが取れず、ただただ蹴られ続けるしかなかった。
「いたぞ! アイツだ! 撃て!」
そんな時、突然男性の大きな声がしたかと思うと、それに続いて銃声が鳴った。俺を蹴っていた少女は銃声と共に地面にバタリと倒れて動かなくなってしまった。
俺が起き上がると、数人の男性が俺たちを囲んでいて、そのうちの1人は銃のようなものを持っている。
わけもわからず俺が恐怖で震えていると、1人の男性が前に出て話しかけてきた。
「驚かせてすみません。あの銃は麻酔銃なので彼女は眠っているだけです。それにしてもご迷惑をおかけしました。怪我はありませんか?」
少女が殺されたわけではないと知り、とりあえずホッとした。俺は急所を蹴られはしたものの、大した怪我はしていない。そのことを男性に伝える。
「そうですか、無事でよかった。しかし今回のことでご迷惑をかけたので、後で慰謝料をお支払いします」
男性はそう言ってくれたが、俺は慰謝料なんかよりもあの少女と彼らについて気になっていた。
「あの、そもそもあの女の子は何者なんですか? それにあなた達は何者なんですか?」
男性は少し考えてから俺の質問に答えた。
「本来ならあまり話さない方がいいのですが……あなたには迷惑をかけてしまったので正直に言いましょう。実は彼女はかつてこの世に多く存在していた『暴力系ヒロイン』の生き残りなのです」
俺は驚く。
「え? 『暴力系ヒロイン』だって? 最近全く見かけないし、もうとっくに絶滅したんじゃなかったんですか?」
男性は首を振る。
「いいえ、実は少数ながら生き残っていたのです。彼女のようにね。私たちはそんな『暴力系ヒロイン』を保護して、少しずつ増やす活動をしているんです。もはや絶滅危惧種ですからね『暴力系ヒロイン』は」
「なるほど……」
その内、大きなトラックがやってきて、気を失ったまま檻に入れられた少女は荷台に乗せられた。
「それでは失礼します。後あまり『暴力系ヒロイン』のことについて他の人に話さないでもらえますか? 『暴力系ヒロイン』を嫌って絶滅させようと考えている危ない団体もあるらしいので」
「わかりました。今日のことは言わないようにします」
「では、さようなら」
男性達と少女は去っていった。
しかし、暴力系ヒロインに生き残りがいたとは思わなかった。俺は暴力系ヒロインが増えて欲しいとは思わないが、絶滅して欲しいとも思わない。いたら迷惑だけど、全くいなくなるとなんか寂しいのが暴力系ヒロインなのだろうな。
そんなことを考え、まだ少し痛む股間をさすりながら、俺自宅に向けて歩きはじめた。
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