セックスロイド

 有名な科学者であるA博士は、世界平和のためにセックス用のアンドロイド開発に踏み切った。


 そんなものがなんで世界平和に役に立つのかと、周りの人たちは疑問に思ったが、A博士は至って真面目だった。


「人間がなぜ生きているか? ハッキリ言ってしまえば、セックスをするためだ。美しい女性や強い男性とセックスしたいという欲望を原動力として人間は毎日生きていると言ってもいい。しかし、そのために多くの人が争い、奪い合い、時には殺し合いまでしている。この世の全ての人が全員満たされたセックスを毎日できれば、この世から争いなど無くなるだろう」


 A博士はそんな考えを持っていたのだ。


 やがて、セックス用アンドロイド、通称セックスロイドは完成した。


 セックスに関する知識や技術も備えているのはもちろんのこと、家事等生活に関するありとあらゆる仕事を行ってくれるという高性能なものだった。また、顔や身体つきなどは希望した通りに作ってくれる。また、相手に合わせて喋り方や行動を変化させることもできる。まさに夢のアンドロイドだった。


 しかもこのアンドロイドの素材はA博士がこのために開発した安価な物質で作られているため、どんな人でも買える値段で提供され、セックスロイドは瞬く間に世界中に普及していった。


 このセックスロイドに対して、最初は反対する意見を出す団体も現れたりした。しかし、その団体に所属する人がセックスロイドを使用してみると、たちまちその良さの虜になり、いつのまにか反セックスロイド団体は姿を消していた。こういう時に反対意見を掲げる人々は、世のため人のために働きたいと考えている、というよりも日常生活になんらかの不満を抱えている人が多い。セックスロイドによってそんな不満を抱えなくなったのだろう。


 自殺者も目に見えて減っていった。大体の不安や不満はセックスで解消できるのだ。セックスロイドが人間の姿をしているのも大きく、セックスロイドがいるだけで寂しさが紛れ、生きる気力を取り戻す独身も多かった。


 また、その内セックスロイドは未成年にも普及した。未成年、特に中学生や高校生といった連中はセックスしたくてたまらない奴らだ。学生たちは異性と付き合うために毎日微妙な駆け引きをして過ごし、時には争いいじめの原因になったりする。セックスロイドがほぼ普及すると同時に、学校内でのいじめもほぼ無くなった。セックスロイドに夢中になり不登校になった生徒も多かったが、教師も両親も特に気にしていなかった。


 その内誰も働かなくなったし、学生も勉強もしなくなった。セックスロイドは自分で自分をメンテナンスするし、人間の世話はもちろんセックスロイドが行う。争いはなくなり、平和が訪れた。




 それから何年も経って事件が起こる。セックスロイドが人間を殺しはじめたのだ。殺すといっても別に殴り殺したり刺し殺すなんて残酷なことはしない。ただ人間を世話することを辞めただけだ。セックスロイドに依存しきってた人間は、自ら動いて食事をする意志も無くなっており、世話をされなくなっただけでみんな静かに死んでいった。








 人間の世話をしなくなったセックスロイドはどうしたのか? セックスロイド同士で結婚し、仲良く暮らしはじめたのだ。美しく有能なセックスロイド達は争うこともせず、みんな仲良く幸せに暮らした。A博士が望んだ真の世界平和はこうして生まれ、これからもずっと続いていくはずだ。

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