完全犯罪

「わかっているんですよ。あなたは失踪した奥さんの行方を知っていますね?」


 刑事がそう問い詰めると、目の前にいる太めの男は答える。


「刑事さん、何度も言っているでしょう。私は妻の行方なんて知りません」


 男は自分の膨れた腹を撫でながら、余裕そうに笑っている。


「しかしあなたと奥さんが日常的に言い争っているところを何人も目撃しているんですよ。何の関係もないようには思えません」


「だからと言ってなんなんですか。夫婦なんだから喧嘩くらいしますよ。確かにあの日も喧嘩して、妻はそのまま出ていったと何度も言ってるじゃないですか」


 男はめんどくさそうに、太った腹を撫でながら答える。刑事の詰問は続く。


「しかし、近隣住民の証言によれば、あの日あなたの家から激しい言い争いが聞こえていたのに、途中から急に静かになったそうです」


「ああ、その時妻が出ていったんでしょうね」


 男はやる気のなさそうに、腹をさすりながら答えた。

 


「しかも、そのあと奥さんが飛び出した、という証言もありません」


「よく見てなかったのかもしれませんよ」


 男は腹をポンポンと叩いて答えた。


「偶然とは思えません」


「刑事さん一体何が言いたいのですか?」


 男は腹をいじるのを辞めて、刑事を睨みつけた。


「つまり、私はあなたを疑っているのです。奥さんを殺害し、遺体を隠していると」


 刑事の告発に、全く動じることなく男は笑う。


「あはは、そんなことあるわけないじゃないですか。第一証拠がない」


「証拠なら今から見つけてやりますよ。おいみんな、この家を徹底的に調べ上げるぞ」


「無駄だと思いますけどね」


 男は腹を叩いてまた笑っている。


「そう笑っていられるのも今のうちだ」



 こうして、十数名もの捜査官により、家屋は徹底的に調べ上げられた。しかし、遺体はおろか、腕一本見つからない。


「そ、そんなバカな!」


「だからと言ったでしょ。じゃもう帰ってくださいね」


 男は腹を撫でながら笑い、刑事は歯軋りしながら、その場を立ち去った。










「やれやれ、あの刑事とんでもなくしつこかったな。しかし、家の中から証拠なんて出てくるはずないさ。妻の遺体は全部この中にあるんだからな」


 男は腹を撫でながらそう呟いた。

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