恩返し

 私の住んでいる町にはお地蔵様がある。人がそれなり通過する道の隅にそっと設置されていのだ。


 石でできた目を瞑って両手で拝んでいるその小さな地蔵様を誰がなんのために置いたのものなのか、謂れは誰も知らないが、わざわざ退かすのも罰当たりなのでそのまま置かれていたのだ。


 ある日、そのお地蔵様のことでちょっとした事件が起こった。お地蔵様の手の部分が壊れて無くなっていたのだ。それに最初に気がついたのは私で、周りを見渡すとお地蔵様のが近くに両手が転がっていた。きっと子どもか誰かがいたずらしたのだろう。


 このまま放っておくのも気の毒に思えたので、修理してもらおうと役場に知らせると、別にあのお地蔵様は公的に管理されているわけではないらしく、断られてしまった。


 とはいえ、このままにするわけにもいかず、下手くそながら接着剤を使って両手を無理矢理くっ付けておいた。


 その日の夜、私は夢を見た。夢の中にお地蔵様が出てきて私に言う。


「今日はありがとうございます。この恩と同じぐらいのお礼をしてあげようと思います」


 そしてお地蔵様は消え、私は目が覚めた。肩が重くて違和感を感じる。私は鏡の前に立ってみて、驚いた。


 腕が左右合わせて4本もあるではないか。元あった腕とは別に、肩から左右一本ずつ腕が生えてしまっていたのだ。


 紛れもなく、両腕をくっつけてあげた恩に対する、お地蔵様の御礼であった。

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