幸せが逃げる

「はぁ、最近色々うまくいかないな」


 私は自室でそんな独り言を言って、ため息をついた。その時、私の口の中から何かが飛び出した。


 出てきたのは体長は3センチ程度で、姿は人間に似ているが背中に蝶のような羽が生えた生き物。まるで絵本に出てくる妖精のようだ。


「あ、あなた一体誰?」


 私が妖精に聞くと、妖精は小さく元気のない声で答える。


「え? あ、はい。私は幸せの妖精です。あなたにとって幸せな出来事を一つだけ起こすために来ました……」


 それを聞いて私は大喜び。


「え! 幸せの妖精ですって! 嬉しい! 最近嫌なことばっかりあったけど、幸せの妖精が来てくれるなんて」


 でも、妖精は首を振る。


「はぁ、でもやっぱりやめようと思います。あなたため息ばっかりつくんだもの。幸せの妖精は人間のため息が嫌いなんです」


 そう言って妖精は窓から出ようとした。確かに「ため息をつくと幸せが逃げる」とか言うけどそういうことだったのか。でも、せっかくの幸せの妖精を逃したくない。私は逃げる幸せの妖精を追いかけて、手で捕まえた。


 しかし、捕まえたがいいが、妖精を追って窓から飛び出した私は地面に真っ逆さまに落ちてしまった。


 



 病院で目を覚ました私は、お医者さんからものすごく驚かれた。


「まさか、高層マンションの15階の部屋の窓から落ちたのに生きているとは……あなたはとてつもない幸運の持ち主ですね」


「はぁ、そうですか」


 確かに幸運かもしれないが、私はちっとも嬉しくない。包帯でぐるぐる巻きになった私はベットの上で、またため息をついたのだった。

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