雪女
ある冬の日、俺は父親と一緒に登山に来ていた。しかし、途中吹雪に遭い、道に迷ってしまった。
「困った。どうしよう父さん」
「あ、あそこに山小屋があるぞ! とりあえずあそこに行こう!」
そして俺たち2人は山小屋へと入った。小屋の中には暖炉があり、燃料の薪もたくさんあった。暖炉がに火をつけて暖まり、なんとか一息ついた。
「ふー暖かい。こんなところに山小屋があって助かった」
「全くだ。まあ今日は一晩ここに泊まって、明日出発しよう。朝には吹雪も止んでいるだろうし」
俺と父は暖炉に火を入れたまま、寝袋に入って就寝した。
夜中、俺はあまりの寒さに目を覚ました。暖炉を見ていると火が消えている。
「火が消えてる。早く点けないと……あ!」
俺は暖炉の火が消えていることよりも、もっと恐ろしいことに気がついた。見知らぬ女が、小屋の中にいるのだ。
黒くて長い髪で、異常ほどの色白の肌、顔は整っていて美しかった。しかし、真冬なのに白い着物を着ている。これではまるで……
「ゆ、雪女?」
俺が恐怖で震えて動けないでいると、雪女は父に近づき顔を覗き込んだ。一体何をする気だろうか。
雪女は父に息を吹きかけた。すると父の体は凍りついてしまった。
「父さん!」
俺は父の元へ行き、体を起こそうとしたが、既に父の体はカチンコチンに凍っており、息もせず心臓も止まっているようだった。
雪女を見ると、じっと俺の方見ている。
「た、助けてくれ」
しかし、雪女は意外なことを言った。
「あなたはまだ若いから見逃してあげます。ただし、今日あったことは誰にも言ってはいけませんよ」
そして、雪女は去っていった。
助かった。しかし雪女が本当にいるとは。雪女の言うように今日のことは誰にも話さないことにしよう。外はまだ吹雪が続いていた……
「で、昨晩あなたはこの山小屋に泊まり就寝。夜中に起きてみると暖炉の火が消えていて、あなたのお父さんが凍死していた。間違いありませんか?」
「は、はい」
俺はあの後、父の遺体を放っておくわけにもいかなかったので、早朝に山を降りて救急車と警察を呼んだ。そして、今警察の事情聴取を事件現場の山小屋で受けているというわけだ。
刑事が首を傾げて言う。
「しかしですな、暖炉の火が消えたから被害者が凍死したのだとすると、なぜあなたの方は無事だったのかという疑問が残ります。」
「そ、それは……」
「しかも、被害者の遺体の状態からして小屋の中にいたようには思えません。こんなにカチンコチンになるなんて小屋の外での野晒しにされてたとしか思えませんね。もしや被害者が寝ている最中に外に運び出して……」
「そ、そんなことしてません!」
「しかし、被害者の寝袋にはあなたの指紋が残ってます。すみませんが署まで同行願えますかな?」
なんてことだ。父親殺しの容疑がかかってしまうなんて。犯人は俺じゃなくて雪女だ。しかし、俺はその事実を伝える気はない。別に雪女との約束を守るためではなく、こんなことを警察に言ったところで信じてくれるわけがないからだ。
全く本当に迷惑な雪女だ。いっそ情けなんてかけずに俺も殺してくれたらよかったのに。
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