耳なし芳一
俺はある日悪夢を見た。夢の中で恐ろしい形相の男が現れ目の前でずっと恨み言を言ってくるのだ。
「ううううぅ……憎い憎い……あの男の子孫が憎い……あと三日……あと三日でお前をバラバラにして地獄へ引き込んでやるぞ……」
そして目が覚める。夢とわかりホッとしたが、まだ体が震えている。しかし気になることがある。夢の中の男はあと三日と言っていたが何のことだろう。
次の日も同じ夢を見た。いや、違うことが一つあり、昨日は「あと三日」と言っていた部分が「あと二日」となっていたのだ。目が覚めた私は嫌な予感がした。
また次の日同じ夢を見た。思った通り今度は「あと一日」と言っている。あと一日でどうなってしまうのだろうか。気になった私は起きてすぐに知り合いのツテを使って、ある寺の和尚を紹介してもらった。その和尚は著名な霊能力者でもあるのだ。
俺の話を聞いた和尚は困った顔をして言った。
「厄介な奴に取り憑かれましたな。おそらくそれはあなたの先祖に恨みを持つ者の悪霊でしょう。だんだんとあなたのところへ近づいているようです。おそらく今夜にあなたの元に訪れるでしょう」
「そ、そうなると私はどうなるんでしょうか?」
「悪霊に体をズタズタに引き裂かれ、魂は地獄へ引きずり込まれるでしょうな」
俺は身を震わせて、和尚に懇願する。
「そ、そんな。何とかなりませんか?」
「まあ、一つだけ手段があります。きっと今夜その悪霊が現れるのでしょうが、今夜だけ身を隠して見つからないようにすればいいのです。そうすれば霊は諦めて去っていくでしょう」
「身を隠すと言ってもどうすれば……」
「この筆であなたの身体中に経文を書くのです。そうすれば経文があなたを守り、悪霊はあなたの姿が見えなくなるはずです」
「まるで耳なし芳一みたいですね。あ、くれぐれも耳に書くのを忘れないでくださいよ」
「そんな初歩的な間違いはしませんよ」
そんなことを言いながら和尚は俺の体に経文を書いていった。耳や鼻、果てはちんこに至るまで、体の隅々に経文が書かれていった。
「これでよし。では今日はこのお寺に泊まっていくといいでしょう。悪霊が現れても声を出さないように。心配しなくてもあなたの姿は悪霊からは見えていません」
そして、俺はお寺の一室に泊まることになった。泊まると言っても寝たりせず、ずっと部屋の真ん中で胡座をかいて座っているだけだが。
そのうち夜中になり、辺りの雰囲気がおかしくなった。毎日見ていたあの悪夢に似ている。俺の近くに、例の悪霊が恐ろしい形相をして現れた。
「どこだ……アイツはどこだ……気配はする……どこだ……」
夢で見た以上に悪霊の姿は恐ろしかった。しかし俺は必死に息を殺す。今夜さえどうにか耐えればアイツは去っていく、だから我慢しないと。
「どこだ……どこだ……」
こんなに近くにいるのに気がつかないとは経文の力は大したものだ。だが油断はできない。俺がいるとバレたら、殺されてしまうかもしれない。
しかしそんな中、困ったことが起きてしまった。俺の股間のチンコが不意に勃起し始めたのだ。
何でこんなことになるんだ。いや、前に本で読んだことがあるが、人間とは生命の危機を感じた時、子孫を残そうと必死になり、勃起することがあるのだそうだ。でも今勃たなくてもいいだろうに。
「……ん……なんだあれは……変なものがあるぞ……」
悪霊は突然俺のいる方を向き、何かを言い出した。しまった、俺がいるのがバレたのか。
「……亀頭だ……何でこんなところに……」
どう言うことだ。どうやら俺自身は見つかっていないようだが、俺の亀頭があの悪霊に見られているようだ。そうか、和尚は俺の体の隅々、それこそチンコまでも経文で覆い尽くしたが、それは勃起する前のこと。包茎であった俺のチンコの皮には経文を書かれているが、その中身すなわち亀頭には経文が書かれていなかったのである。つまり悪霊には今空中に亀頭のみが浮かんでいるように見えるはずだ。なんてことだ。悪霊は不思議そうに首を傾げている。
「……わからない……不思議だ……しかしアイツが見つからないなら仕方ない……この亀頭だけでも持って帰るか……」
ちょ、ちょっと待ってくれ、亀頭だけ持って帰るってそんな殺生な……痛い、やめてくれ、やめて……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ
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