賢者の贈り物

 私には恋人がいて、2人で一緒に暮らしている。私たちはどこからどう見ても普通のカップル……と言えたらいいのだけど、普通のカップルとは違うところがある。それは2人とも女性であるということだ。


 ある年のクリスマスイブ、私は朝から家を出た。彼女には「仕事があるから」と伝えているけど、本当は違う。私はとある病院に向かっていた。病院といっても病気や怪我の治療のためではない。私は今日、男性器をつけるための手術を行う予定なのだ。


 医療技術の発達はめざましく、様々な病気を治療できるようになったが、ついには女性器を男性器に変えることができる手術を行えるようになったのだ。


 病院に着くと、担当の先生から今日の手術についての最終確認があった。


「何度も繰り返しになりますが手術の説明です。今回の手術は女性器に男性器の核、つまり種ようなものを埋め込み成長させ男性器を生やします。男性器の成長速度は早く、手術から2時間後には成人並みの大きさに成長します。入院の必要もなく、今日の夕方には帰宅可能です」


 先生の説明は何度も聞いた話だった。


「そして、大きな注意事項が2つあります。一つはこの手術が将来人体に悪影響を与える可能性がゼロではないということです。今のところ術後特に問題のある患者は出ていませんが、この手術自体が今年になってから認可された新しい種類の手術なので、これから先どうなるかは分かりません」


 それもわかっている。でもリスクがあるのは覚悟の上。私にはどうしても男性器が必要なのだ。


 彼女が子供を欲しがっていることを、私は知っている。


 街を歩いていると、夫婦とその子どもが仲が良さそうに歩いたりしていると、彼女はいつも寂しそうに見ていた。私はどうすることもできなかった。


 でも、男性器が有れば彼女の夢を叶えてあげることができる。多少のリスクなんてどうってことない。


 先生はさらに説明を続ける。


「そして2つ目の注意事項は、元に戻すことができないという点です。つまり女性器を男性器に変えた後で、男性器を女性器に変えることはできません。男性器を女性器に変える方法は現在研究中です。後になってから後悔してももう戻すことはできません。ご家族の方やパートナーの方とよく話して納得していただけましたか?」


「はい、了承は得てます」


 私はそう答えたが嘘だ。本当は彼女には黙っている。話してしまえば、こんなリスクがある手術を、彼女は私に受けさせようとはしないはずだからだ。もしかしたら「あなたじゃなくて私が手術を受ける」と言い出すかもしれない。私は彼女にはリスクを背負って欲しくない。だから黙って手術を受けることにしたのだ。


 そして、手術は始まった。


 




 2時間後、私の股間には女性器の代わりに立派な男性器のが生えていた。


「手術は成功ですね。これなら何の問題もないでしょう」


 先生のお墨付きもいただき、私は悠々と帰宅した。


「きっと彼女は驚くだろうな」


 そんなことを考えながら。



 そして、その夜。私の予想通り、彼女は私の男性器を見て驚いていた。しかし同時に予想外なことが起こり、私も大いに驚いた。


 私同様、彼女の股間にも男性器のが生えていたのだ。前に見た時は生えていなかったはず。


「わ、私は今日病院で手術して……もしかして……」


「うん、私も今日病院で手術してきたの……まさかこんなことに……」


 男性器を生やした私たち2人は、それ以上何も言うことができず、ただベッドの上で呆然とするしかなかった。

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