呪いの人形

 ある日の夜。その日俺は酒を飲んで酔っ払っていて、千鳥足で帰宅しようとしていた。


 途中、俺は何かの視線を感じて周りを見渡す。


「あれ……誰かいるのかぁ?」


 周りには誰もいない、だかゴミ捨て場に一体の西洋人形が置いてあった。長い金髪に青い目をした人形で、ゴミの山の上でまるで座っているように置いてある。


「なんだ、人形か」


 俺は人形などに興味がないのでそのまま放っておいて帰宅した。


 しかし、次の日目が覚めてみると、なぜかあの人形が部屋のテーブルに置いてあったのだ。


「あれ? 確かそのままにしておいたはずなんだけど……だいぶ酔ってたからな。記憶違いか?」


 とにかく何だか気持ち悪いので、その日外出した時に、人形を元あったゴミ捨て場に捨てておいた。


 そして、俺が用事を終えて家に戻ってみると、あの人形がテーブルの上に置いてあるではないか。俺は恐怖で震える。


「か、勘違いじゃなかったんだ! こいつは呪いの人形だ!」


 前にこういう呪いの人形を映画で見た気がする。それは何度捨てても持ち主の元に戻ってきてしまうというやつだった。


「クソ! 呪われてたまるか! もっと遠くに捨ててしまおう!」


 俺は次の日、電車に乗って遠くの田舎まで行き、山の中に人形を捨ててきた。しかし、帰宅したら、もうテーブルにはあの人形が鎮座している。


「諦めないぞ! 絶対に捨ててやる!」


 次の日、俺は仕事に行く途中にゴミ捨て場に行き、ゴミ収集車を待った。そして回収に来た人に直接人形の入ったビニール袋を手渡して、収集車の後ろに飲み込まれていく様子をきちんと確認してから出勤した。しかし、帰宅するとテーブルには人形が居る。


 それから俺は川や海等さまざまな場所に人形を捨てに行った。しかし、人形はその度にキチンと帰宅していた。もはやどうしようもない。


 ここまでくると、俺は人形に対して恐怖というよりも感心してきた。よくもまあ毎回毎回無事に帰宅してくるもんだ。


「そもそもどうやって家に戻ってくるんだろう?」


 ある日、そんな疑問が湧いたので人形にGPSを付け、さらに頭の上に小型カメラも付けておいた。そして、また山の中に人形を捨てて、帰りの電車の中でカメラの様子を見てみた。


 最初人形は倒れたままだったが、そのうち起き上がり、その後高速で走り始めた。てっきり呪いの人形だからワープしたり空中を浮遊したりするのだと思っていたが、意外と原始的な移動方法だ。


 GPSの反応も見てみるとマップ上を人形は電車よりも早く移動している。そりゃ俺よりも早く帰宅しているはずだ。


 俺が帰宅すると呪いの人形はテーブルに何事もなかったかのように鎮座していた。


「お疲れ」


 俺は人形にそんな声をかけた。


「それにしても面白かったな。呪いの人形の旅路を追うっていうのも……そうだ!」


 あることを思いついた俺は、動画配信サイトのアカウントを作成して、今回人形が撮影した動画を投稿した。「何回捨てても戻ってくる呪いの人形を山中に捨ててみた」というタイトルだ。たちまち評判になる。


 それから俺はまたさまざまな場所に人形を捨て、帰宅するまでの旅程の動画を投稿した。遠くの街のゴミ捨て場から田舎の湖の底まで、さまざまな場所に人形を捨てたが、その度に人形は生還し、どの回もかなりの再生数を記録した。その結果俺の通帳には多額の広告収入が入ってくるようになった。


 しかし、毎回同じ場所に捨てても視聴者に飽きられてしまう。視聴者はいつも刺激を求めているのだ。俺の動画はさらに過激になった。人形を金庫に入れて海に沈めた時もあったし、ある火山の火口の中に投げ込んだこともあった。


 そして今度は宇宙について研究している友人を頼って、ロケットに人形を乗せて飛ばす計画を立てている。宇宙から人形は生還することはできるのか、どれだけの再生数を記録するのか今から楽しみだ。

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