清々しい
俺はよくお人好しと言われる。友人たちが言うには、俺は人のことを簡単に信じすぎなのだと言う。しかし、俺に言わせれば人のことを信じられないなんて悲しいことだと思う。人を疑うよりも信じる方が気持ちがよく清々しい気分になる。だから俺はこの性格を治す気はない。
そんなある日、俺は駅前で顔見知りのおばさんに声をかけられた。
「兄さん電車賃貸してくれんか? 今お金がなくて……」
このおばさんはよく電車賃を失くしたり忘れたりするので、俺はその度にお金を貸しているのだ。このことを話すと俺の友人は「それは単なるたかり行為だ!」なんて言うが俺はおばさんを信じている。
「もちろん! 今日はどこまで行くつもりなのですか?」
するとおばさんは申し訳なさそうに言う。
「ええとちょっと大阪まで……大阪にいる息子がえーっと病気なもんで、新幹線に乗らないと……」
それを聞いて俺は驚く。
「なんと! それは大変だ! 早く行ってあげないと! でもここは東京だから大阪までは新幹線でも2時間はかかります! 俺がもっと早い方法で送ってあげますよ!」
俺は遠慮するおばさんを無理矢理タクシーに押し込み、俺の職場である大学の研究室へと向かった。
研究室に着いた俺は、ある大きな機械の中におばさんを入れた。
「ちょ、ちょっと! これは一体なんなんだい!」
不安そうなおばさんに対して、俺は笑って答える。
「安心してください! これは俺が開発した空間転移装置なんです! 一瞬で大阪まで移動できます! まだ一般には使用されていない装置ですけど安全なのは俺が保障します! では! 息子さんによろしく!」
俺が装置のボタンを押すと、おばさんの姿が消える。おばさんは消える時、何だか泣いてた気がするが、きっと嬉し泣きだろう。
その後、あのおばさんを駅で見ることは無くなった。きっと息子さんの具合も良くなって、2人で大阪で楽しく暮らしているのだろう。
また一つ良いことをした、本当に清々しい気持ちだ。
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