泥棒がやって来る
俺はある夜、とある家に侵入した。目的は中にある金目のものを盗むことだ。要するに俺は泥棒だ。
この家には以前から目をつけていた。裕福そうだし、年老いた男がたった1人で住んでいるということもわかっている。仮に見つかっても老人1人なら脅せばなんとかなる。計画は完璧だ。
俺はロープを使って二階に登り、窓ガラスを割って部屋に侵入しようとした。しかし、驚いたことに窓が既に壊れて開いている。不思議に思ったが、仕事がやり易くなっただけだ。俺は壊れた窓から部屋に侵入した。
その直後、部屋の電気がついた。部屋の中には1人の老人、この家の家主が立っていた。
「くそ、いきなり見つかるとは……しかし仕事にはなんの支障もない。おい、殺されたくなかったら大人しく金目のものを出せ!」
俺はナイフを見せつけながら、老人を脅迫した。老人は震え、泣きながら叫ぶ。
「ひぃ! 勘弁してくれ! もう勘弁してくれ!」
そんな哀れな老人へ、俺は落ち着いた口調で話してやる。
「何、大人しくしてれば命までは取らねえよ。金目の物を出したらすぐに帰ってやるさ」
「か、金目の物ならあそこにまとめてあります」
そう言って老人が指を差したところには、カバンが置いてあった。中を見てみると現金や宝石や貴金属など確かに金目の物が入っている。
なぜ金目の物がこうも都合よくまとめられているんだろうか。まるで俺がくるのを知っていたかのようだ。
「は、早く帰ってくれ! 頼む!」
老人は叫ぶ。
「なんだか怪しいが……まあこれだけ有れば文句ねえ。あばよ」
俺はカバンを持って外に出ようとした。しかし、それは出来なかった。なぜかカバンを掴むことができない、いやそれどころか触れることすらできなかったからだ。カバンが俺の手をすり抜けていく。どういうことだ、新手の防犯装置か何かだろうか。
「おい! これは一体どういうことだ!」
俺は怒りに任せて老人の胸ぐらを掴もうとした。しかし、それはできなかった。カバン同様、老人の体は俺の手をすり抜けていったからだ。見えるけど、触れられないなんてこれはまるで……
「ゆ、幽霊だ!」
俺はそう叫んで、逃げるように家を脱出した。
「や、やっと今日も帰ってくれた。何が『幽霊だ!』だ! それはこっちのセリフだ! あの泥棒、1週間前に家に入ってきて、金目の物を盗んで逃げようとした時に、うっかりベランダから落ちてそのまま死んでしまった。物は無事だったし、死んだ泥棒は少し気の毒だが、あの時は良かったと思っていた。しかし、あれ以来毎日アイツの幽霊が現れるようになってしまった。しかも、死んだことはおろかこの家には侵入したこともすっかり忘れているようだ。未練があって幽霊になったのだとしても、金目の物を盗めないんじゃ成仏もできそうにないし、ワシはこれから一体どうすれば……」
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