さよならキノコくん

 俺にはキノコくんというかけがえのない友人がいる。俺はキノコくんといつも一緒だ。彼は俺の右腕に生えているのだから当然そうなる。


 キノコくんとの出会いは今から一年前のこと。俺がジメジメとしたアパートの一室で暮らしていると、俺の右腕の肘辺りに突然キノコか生えてきた。驚いたし不気味に思ったので、最初俺はそのキノコを抜こうとした。その時、大きな声が聞こえたのだった。


「ヌカナイデ!」


 どうやらその声はキノコから発せられているようだった。よく見るとそのキノコには、目があり、口がある。つまり顔があった。


 呆気にとられている俺に、キノコはさらに懇願した。


「オネガイシマス! ヌカナイデ!」


 まだ不気味さはあったものの、これだけお願いしているので、引っこ抜いてしまうのも気が引ける。


「わ、わかった抜かないから」


「アリガトウゴザイマス」


 キノコは俺の言葉を聞いて笑う。キノコの笑顔はなんとなく愛嬌があって可愛いと思った。


 


 その日から俺とキノコくんの同居生活が始まった。とはいえ右腕にキノコくんがいるだけで、それ以外は何も変わらない。外に出て他の人に見られたら驚かれるかもしれないが、元々パソコンを使って家で仕事をしていて、あまり外に出なかったので問題はない。


 キノコくんは普段は大人しくしているが、俺が何か言うと相槌を打ってくれるし、俺が鼻歌を歌っていると一緒に歌い出したりする。友達もろくにおらず、1人寂しく暮らしていた俺にとっては、キノコくんの存在は生活の癒しとなった。


 ちなみにキノコくんという呼び名は俺が考えた。2人で話すときは呼び名がないと不便だし、単に「キノコ」と呼ぶのもそっけない気がしたからだ。






 そんなこんなで一年が経った頃、キノコくんの様子がおかしくなった。


 朝起きてみると明らかにキノコくんが衰弱していた。


「おい、キノコくん大丈夫か?」


 俺が心配をしてキノコくんに声をかけると、彼は苦しそうに答える。


「ド、ドウヤラソロソロアナタトハオワカレノヨウデス……」


 キノコくんの口から出た「お別れ」という言葉に俺は動揺する。


「な、なんで……お別れなんて俺嫌だよ!」


 俺は泣きながらキノコくんに訴える。


「サヨウナラ……」


 そう言い残すと、キノコくんの体は俺の腕から外れ、床に落ちてしまった。


「キノコくん!」


 俺は泣き叫びながらうずくまり、やがて気を失ってしまった。














「ヤレヤレ、ヤットコイツノカラダヲウバウコトガデキタ。サア、コレカラキュウクツナオモイヲスルコトハナイ。ワタシハモウジユウナノダ!」

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