不景気

 ある休みの日、俺は行きつけの床屋に散髪に行った。待ち時間を床屋に置いてあるスポーツ新聞を読んで時間を潰すのがいつもの習慣なのだが、今日はそのスポーツ新聞が見当たらない。


 新聞を探す俺を見て、店主の理容師さんが申し訳なさそうに言う。


「すみません。スポーツ新聞取るのやめちゃったんですよ。最近不景気だから、少しでも経費削減しようと思って……」


 そうか、不景気か。なら仕方ない。考えてみると俺は当たり前のようにここのスポーツ新聞を読んでいたけど、新聞だってタダじゃないんだからな。俺は携帯電話をいじって時間を潰した。





 別のある休みの日。俺は車の修理で自動車ディーラーに行った。修理を待つ間、待合スペースでコーヒーを飲むのがいつもの習慣だ。ここの客はコーヒーが無料で飲めるのだ。しかし、いつもの場所にあったコーヒーメーカーが無くなり、代わりに自動販売機が置かれていた。


 店員に聞いてみると申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません。実は先月からコーヒーの無料サービスを中止しまして……」


 不景気だからな、仕方ない。たかがコーヒーでも何杯も何杯も無料で提供していたら負担にもなるだろう。仕方ないので俺は自動販売機で缶コーヒーを買い、それを飲んで待つことにした。




 ある日の平日。俺は仕事で外に出ていた。お昼になり、俺は行きつけの牛丼屋に入り、並盛りの牛丼をひとつ注文した。ここの牛丼には味噌汁がセットで付いているの気に入っている。しかし、なぜか今回は牛丼だけが運ばれてきた。


 店員に聞いてみると申し訳なさそうに言う。


「すみません、先週から味噌汁のサービスが無くなって……」


 よく見ると、メニューにそのことが書いてある。気がつかなかった、まあ不景気だし仕方ないか。俺は牛丼とは別に味噌汁を追加で注文した。





 そしてまたある日の平日、俺は仕事を終えて帰宅した。今日は早く帰れたので、久しぶりに妻と子どもと一緒に夕食を食べることができそうだ。しかし、テーブルには妻と子どもの分の夕食はあるのに、俺の分の食事がなかった。


 妻に聞いてみると、申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい、不景気だから家計のやりくりが大変で、今日からあなたの分の夕食はカットすることにしたの……」


 そうか、不景気か。なら仕方ない。


 そう、不景気なら仕方のないことなのだ。

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