四川風激辛麻婆豆腐
俺はとある会社で働くサラリーマン。ようやく仕事が終わって、もうクタクタだ。今日は上司に怒鳴られるわ、取引先に無茶苦茶なクレーム言われるわで大変な一日だった。
「こんな日は家に帰って一杯やるに限る。アレを買いに行こう」
俺はそう独り言を言ってコンビニに向かった。
アレというのは家の近くのコンビニで売っている『四川風激辛麻婆豆腐』というチルド食品のことだ。数年前にたまたま買って食べて以来、大好物になった。今ではほぼ毎日買っていて、家でその麻婆豆腐をつまみにしてビールを飲むのが日課になっている。それが俺の生きがいと言ってもいい。
俺がいつものコンビニに入って、まず缶ビールを2本ほどカゴにいれた。そして、もちろん麻婆豆腐も買おうといつもの場所を探したが、なぜか麻婆豆腐が無かった。
「まさか売り切れか? ショックだな」
困った『四川風激辛麻婆豆腐』は俺の生きがいなのに。こうなったら別の店舗へ行ってみようか。でも別の店舗と行ってもここからかなり離れている。色々考えて俺はとりあえず店員に尋ねてみる。
「すみません。この辺りにあった『四川風激辛麻婆豆腐』は売り切れなんでしょうか?」
物がないのなら見ての通り売り切れだとは思うが、一応は聞いてみた。もしかしたら今から品出しをするところかも、という淡い期待もあったのからだ。
しかし、店員さんは「少々お待ちください」と言って何やら調べ始め、やがて申し訳なさそうな顔で俺に言った。
「すみません。『四川風激辛麻婆豆腐』なんですが、販売が終了したんです」
「え、じゃあもう入荷は無いんですか?」
「はい、申し訳ありませんが……」
俺はショックで頭が真っ白になり、何も買わずに帰宅した。
本当に生きがいだったのだ、あの『四川風激辛麻婆豆腐』は。生きがいがなくては生きていく意味がない。こんな嫌なことだらけの世界であの麻婆豆腐だけが生きていく理由だった。あの麻婆豆腐が無い世界なんてなんの未練もない。
帰宅後、俺は自室で首を吊り、自ら命を絶った。
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