キラキラネーム
妻が妊娠した。夫婦にとって初めての子どもだ。
その後生まれてくる子どもが男の子だと判明した。そろそろ名前を考えるのがいいかもしれない。
何も思いつかないが、決めたことが一つだけある。それはキラキラネームをつけないということだ。
キラキラネームとは一般的でない読み方や当て字を使ったり、アニメや漫画の登場人物の名前をそのままつけたりする奇抜な名前のことだ。
キラキラネームをつけられたせいで悪い意味で目立ってしまい苦労した、という話を聞いたことがある。だから自分達はそんな名前はつけないようにしよう。
とはいえ、なんでもいいわけではない。ちゃんとした由来があって、将来子どもに「君の名前にはこういう意味が込められているんだよ」ということを言ってあげたい。
まず将来子どもにどんな人になってもらいたいか、という事を考えた。子どもに希望することは色々あるが、まずは健康に育って欲しいと思った。
健康に育ってくれるような名前をなんとなく考えて、呟いてみる。
「健太。健人。康雄。康久……」
どれも悪くないけど、しっくりとこない。
図書館に行き、命名に関する本や漢詩集や日本古典文学の本を読んだ。会社の先輩が中国の漢詩の一節を元に子どもの名前につけたという話を聞いたことがあったからだ。名前の由来が漢詩とか古典だなんてなんだかかっこいい気がした。それにこういう伝統あるものが名前の由来なら将来馬鹿にされることもないだろう。
俺はその日図書館に篭り、さまざまな本を読み漁った。そして、ついにある一つの名前を思いついた。
「よし! これにしよう」
そして、時は流れて俺の息子は無事健康で生まれてくれた。名前は前に思いついたあの名前を命名した。
さらに時が流れて、小学一年生になった子どもは元気に過ごしていた。俺の名前のおかげかもしれない。
しかし、悩みが一つある。勉強の成績が良くないのだ。この間あった漢字の小テストで悪い点数を取ったという。その答案を見てみるとたいして難しくもないのに解答欄の後半が空白だ。
俺は息子と話す。
「勉強もしっかりしないとダメじゃないか」
すると息子は俺を睨んで叫んだ。
「全部お父さんのせいだよ!」
どういうことだろう。俺のせいでだなんて。よくわからないが、知らず知らずのうちに子どもを傷つけることをしてしまっていたのかもしれない。
「どういうことだ。お父さん何か悪いことしたかい?」
そう問いかけても息子は目に涙を浮かべるだけ。
「お父さんなんて大嫌い!」
やがてそう言い放って息子は家を飛び出した。俺は息子を呼び止めるために大声で叫ぶ。
「待ってくれ! 寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処やぶら小路の藪柑子パイポパイポ パイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助ぇ!」
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