チーズ牛丼

 オタクやネクラな人を指すネットスラングとしてチーズ牛丼という言葉が最近流行っている。俺はこの言葉が大嫌いだ。


 俺自身が暗くて人と話せない性格なので、ネットのチーズ牛丼という文字を見るだけで自分自身のことを言われ、バカにされているように感じてしまうのだ。


 しまいには俺は現実でも「チーズ牛丼」と呼ばれるようになった。ある日道ですれ違った男子学生達が俺を指差して「あ、チーズ牛丼だ!」などと言ってきた。俺は怒って男子学生達に近づくと、彼らは一目散に逃げていった。本当にムカつく。


 それだけではない。それから、俺を見かけた人々はみんな俺をチーズ牛丼と呼んできた。男も女も、若者も年配者も。一体なんで知り合いでもない奴らにこんな悪口を言われなきゃならないんだ。


 俺は人々の目線から逃げるように公衆トイレへと入った。入り口の洗面所にある鏡に俺の姿が映る。












 大きなどんぶりに盛られたたっぷりのご飯、それに乗った牛肉と上に散らされた様々種類のとけるチーズ。正真正銘のチーズ牛丼が宙に浮いて鏡に映っていた。




 そうか、思い出した。俺は本当にチーズ牛丼だったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る