僕っ子

「ぼ、僕の名前は早乙女友美です。よろしくお願いします」


 転校初日、僕は緊張しながらクラスメイトの前で自己紹介をした。親の仕事でよく転校する僕だけど、いつもこの時は緊張する。いい友達ができるといいな。


 そんな時、ある1人の男子が野次を飛ばしてきた。


「うわーへんなのー! こいつ女のくせに自分のこと僕なんて言ってるぞー」


「あの、えっとそれは……」


 いきなりの野次に驚いてしどろもどろになっていると、1人の女子が立ち上がった。


「おい、あんた。女子が自分のことを僕って言うのそんなにおかしいか?」


 その女子は野次を飛ばした男子よりも背が高い、かっこいい感じの女の子だった。その女の子は続けて言う。


「俺も女だけど自分のこと俺って言ってるよ? つまりあんたは俺のことも変だって言いたいの?」


 この女の子は一人称が「俺」らしい。すごい迫力で男子は怖気付いている。


「へ、変じゃないです! ごめんなさーい!」


 男子は大声で謝る。そんな彼を見てクラスメイト達は笑った。



「あのバカが嫌なこと言って悪かったね。俺は女の子が自分のことを『僕』って言ってても全然変じゃないと思うよ。これからよろしくね」


 女の子はそう言って微笑んだ。初日から良い友達ができてよかった。


 でもクラスメイトはみんな勘違いをしている様だけど僕は「男」だ。


 僕の名前は友美という一見すると女の子の様な名前で体も小さいけど、正真正銘僕は男で、それを隠しているわけでもない。でもいきなりああいうことがあって、自分が本当は男であるということをすっかり言いそびれてしまった。


 一人称が俺の女の子は僕に親近感が湧いたらしく、よく話してくるようになった。嬉しいけどこれはまずいのではないかな。いつまでも隠すわけにもいかないし、一体どうすればいいのか僕は今困り果てている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る