第31話 夢物語
誰に魔術を習ったのか聞かれたとき、音にならなかった単語がオーナーの口から出てきて動揺しそうになった。
『ルアトイゴスの先生に』という単語が俺は音に出来なかったのだ。
ただ、それがどういった場所で、『先生』がどれほどだったのかまで詳しくは知らない。
言い方によってはまた制限がかかりそうで、気になった単語だけ拾うことにした。
「……一人?」
うーん、と一つ唸ってからオーナーはまた苦笑いをした。
どう説明するか悩んでくれているような気がする。
「ええとね、キミがどこまで教わっているのかは分からないけど、魔術詠唱そのものにも色々あってね」
「あ、はい。種類があるとは」
「教えられたり伝わって使われている一般的な詠唱と、それから個々人で異なる詠唱がある」
「じゃああれは、『個々人で異なる詠唱』なんですね」
「そうだね」
オーナーはまだ言葉を選ぼうとしていたけど、適切な表現が見つからなかったのかもしれない。
瞳を閉じて眉間にしわを軽く寄せながら言った。
「かつて『ルアトイゴス魔術学校が誇る天才』と呼ばれた男――
二つ名も、その名前も、俺は知っている。
直接その人に教わったのだから。
それに、多分『先生』は今も俺の事を見ている。
今こうして俺が考えていることも、悪魔には伝わっているのだろか。
だとしたら話が早いのに、と思ってセバスさんとオーナーを見ても、特に反応はない。
悪魔すらもごまかせるような、そんな術がかかっているのかもしれない。
あの人ならやりかねない。
アイドル時代に作り慣れた笑顔で、俺は答えた。
「先生の教え子に教わったのかもしれませんね」
「ああ、そうか。その可能性なら、いや、そう考えるのがそもそも妥当だね」
教え子、と言ったときにグリーズさんが一瞬反応したような気がした。
もしかしたらこの人も、魔術学校の出身者なのかもしれない。
それまで厳しい表情をしていた人達も、肩の力が抜けたように視線の鋭さが無くなっていた。
「……セバスチャンの話題の振り方が悪かったね。教え子ならそこまで長く確認するする内容でもない」
「えぇっ、私のせいなんですか」
「既に行方知れずになった天才が、異世界に居るなんて夢物語にも程がある」
フッ、と笑うとオーナーはパンッと手を叩いた。
何にしたって兄がいるこの場所で、その話をするのはややこしい。
それ以上俺は何も言わずに、切り替わっていく話に身を任せることにした。
「僕達の興味のせいで少し話題がそれてしまったね。
猫ノ目書房のなつやすみ2 佐久良銀一 @ginichi_sakura
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