第30話 『改変』詠唱
「どういうことですか?」
今日『吸血鬼事件』の話をするうちに、初めて聞いた存在が急に出てきて驚く。
誰よりも鋭い目をして、兄が俺を見ていることに気づいた。
オーナーが聞いたのは代弁なのかもしれない。
心の中で俺が祈ったことを聞き入れてくれるなら、その逆があってもおかしくはない。
俺が考えている音すら読み取ったのか、オーナーが静かに続けた。
「僕はキミが『利用されてるかどうか』を確認してるだけだよ。どうかな?」
「俺が知っている吸血鬼はこの町の『
「そうか。なら良いんだ」
オーナーは赤い目を閉じて柔らかく微笑んでくれた。
けど、視線をずらして確認すると、兄は納得した様子がない。
俺と何か接点がある、もしくは兄は『何かを知っている』のか。
聞きたいことはこっちにも出来た。
けど、だからと言ってこの事件が解決した後、俺の『ダッシュ帰宅』予定は変わらない。
いつのまにか俺も険しい顔をしていたのか、葉が耳の先で眉間を揉んできた。
ふにゃっとしてて柔らかくて気持ちが良い。
もう少し思考を回そうとしたけれど、何か吸い取られているんじゃないかと思うほど考えられない。
暗黒もちもち水まんじゅうだし、そのくらい出来そうな気もする。
「じゃあ、もう一つ確認しても良いかな」
「はい、なんでしょう」
「創作魔術、だよね。『打上花火』って」
「そうですね」
俺が頷くと、グリーズさんが驚いたように目を見開いたのが分かった。
オーナーとの問答を聞く間、難しい顔をして何か考えていそうだった兄も同じだった。
なんでそんな優しい顔して微笑んでるんだこの人。
目が合ってしまって気まずくて葉に逸らす。
すると、こいつもにこにこして俺の方を見ていた。
なんでだ、何かおかしなこと俺は言ったか?
不思議に思っていると、セバスさんが静かに呟いた。
「“『魔術』とは人々の幸せの為にあり、時代で生活は変わるように『新たに変化』する”」
「ちょっと待ってくれセバスチャン」
「“全ては今を生きる者達の幸福のために、私は自分の創造を具現化する”」
言葉を聞いて驚いたオーナーの制止を聞かずに、セバスチャンは続けた。
『改変』用の詠唱だけを抜き出すと、俺の方を悪魔は見ていた。
「……これが、先ほど
「本当かい?」
「え、あ、はい」
魔術を使ったことよりも、更に注目を浴びるような感覚に居心地が悪くなる。
俺の『先生』はこれ以外の『改変』用の詠唱を教えてくれてない。
オーナーは額に手を当てて、汗を滲ませていた。
「なんてことだ、一体どうやって……」
「え、えっと……何かまずいんですか?」
困惑を隠さずにオーナーに聞いてみる。
ふっと短く息を吐きだして冷静に伝えてくれた。
「まずくはないよ。ただ厄介な事に問題は増えたかもしれない」
「え?」
「少しばかり話しが込み入ってきたという事ですよ」
セバスさんが笑顔で補足してくれる。
オーナーも困ったような笑みを浮かべて少しだけ考える風にした。
視線で兄と後月さん、それからグリーズさんとサンドルを見て何かを確認してから俺に行った。
「キミのその詠唱を教えた人間はね。異世界の『ルアトイゴス魔術学校』という場所に『一人』しかいないはずなんだ」
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