第28話 まるでラノベのタイトルのような

「分かりました」


 頷いた後、“ミコト”さんの後ろからホワイトボードの前に移動し始める。

 何気なくグリーズさんがズレて、“ミコト”さんの背後に回る。

 何となく振り返ってみると、サンドルさんも俺の真後ろに移動していた。

 こういう事に慣れているのだろうか。


 またサンドルさんに微笑まれても気まずいので早々に前を向く。

 オーナーはホワイトボードの横の椅子に腰かけ、従業員の二人も同じテーブルに座った。


「bar『Bloody Moon』に神永の連絡係、流くんが来た後。私とサンドル、グリーズは水上神社に向かいました」


 セバスチャンも悪魔だからなのか、それとも魔術にそういう術があるのか。

 ホワイトボードに可読性高めの太字系ポップ体フォントで文字を浮かび上がらせてた。

 いや、なんでポップ体なんだよ。


水上神社みなかみじんじゃからの道中、我々に何が起きたのか』


 最初は黒一色で浮かび上がったこの文字が、徐々に変化していく。

 ライトノベルや異世界転生モノなどの、長めのタイトルロゴデザインを思わせるオレンジやピンクを使用したカラフルな物になった。

 テーマは分かりやすいけどなんとなく集中しづらい気がする。


 内容自体は相違なく、分かりやすい説明もついているのに落ち着かない。

 そんな文字をホワイトボードに浮かび上がらせていった。


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 ①護衛として到着後、竜神の了承を得て警護対象(ミコト様、優史ゆうし様)を連れ出すことに

 ②直前で町全体が闇に包まれる

 ③神社の結界が夜仕様へ、セバスチャンが影響により行動不可

 ④既に「鳥居」の外だった為、霊体のミコト様の安全圏内への避難不可

 予定とは大幅に異なるもの店へ移動開始(優史様は避難を拒絶したため同行)

 ⑤道中で敵の対処をしていたグリーズが足を負傷、サンドルと共にその場にとどまりかける

 ⑥領域魔術「打上花火」による目標の分散に成功

 早急にグリーズの足を治療を施し、全員での行動再会

 ⑦謎の「火の鳥」出現で闇が霧散、その隙に店へ移動


【要確認事項】

 ・警護対象に怪我はないか

 ・グリーズが浸食されていないか

 ・水上町みなかみちょうを包んだ闇は一体なんだったのか

 ・領域魔術「打上花火」

 ・謎の「火の鳥」


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 要確認事項については一瞬で浮かび上がらせて、オーナーの方をセバスさんは見た。

 顎に手を当てて考えるようにしていたオーナーは、頷くだけで何も言わない。


「先ほど改めて確認しましたが、“ミコト”様と白鳥優史様に怪我はないでしょう」

「いつ確認したんですか……?」


 俺が怪訝そうな顔をすれば、セバスさんは苦笑いを浮かべながら応えてくれた。

 改めて確認される程見られた覚えがない。

 ずっと一緒に居たようも、なんとも言えない表情で俺の事を見ていた。


「先ほどオーナーが説明している間に、出来る限り確認させて頂きました」

「せめて了承を得て欲しいです」

「次回から気を付けます」

「お願いします」


 俺と同じ気持ちだったのか、“ミコト”さんも横で分かりやすく深くうなずいていた。

 タイミングでも見計らったかのように、葉も同じタイミングで頷いていた。

 なんで? いや、俺の事守ろうとしてくれてるからか。


「次に、グリーズの怪我について。敵そのものにつけられた傷ではなく、近辺で砕けたコンクリート片での傷だったようです」

「あ、そうなんですね」

「はい。こちらも先ほど私が確認しました」


 グリーズさんの方を思わず見る。

 いや確認された覚えないんですけど、そう顔に書いてあるような気がした。

 悪魔ならわかるものなのかもしれないが、一応説明ぐらいはしておいてほしい。

 眉間に若干皺を刻んで、オーナーはため息をこぼしてから呆れを隠さずに言った。


「後でセバスチャンはその件について深く話し合う事」

「あっ、はい……」

「それで、闇については?」

「正直なところ、詳細はよくわかりませんね。観測するよりも我々は逃げる方に必死だったので」

「そうだね、こっちも似たようなものだ。何の術か分からない」

「ただ、収穫が全くなかったわけではないんですよ」


 セバスさんはまたホワイトボードに文字を浮かび上がらせた。


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【出現した闇と敵について】

 ・明かりに引き寄せられる

 ・火が弱点


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「弱点と特性については、優史くんの打上花火がより分かりやすくしてくれたんですが」

「……優史の?」


 絶対来るだろうな、と思っていた兄の鋭い視線が俺に突き刺さる。

 隣に居る後月しづきさんも目を見開いて、いや、口までちょっと空いてるな。

 セバスさんは俺を困らせてみたいのだろうか。

 味方かどうかも分からない笑みを浮かべていたような気がした。


「ええ。先ほど打ちあがったあの『花火』は彼の領域魔術ですよ」

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