第27話 円卓会議
「まずbar『Bloody Moon』に届いてる情報を共有しよう」
オーナーが後ろのホワイトボードを指し示すと、ふわりと文字が浮かび上がってくる。
魔術のなのか悪魔の成せる技なのか俺にはよくわからない。
『今、
何気にデザインがしっかりした太めの黒のゴシック体フォントで書かれていて、目立つように赤の下線が引いてある。
ものすごく可読性が高く、読みやすいけどホワイトボードにペンで書いたようにその字体が浮かび上がってるのがじわじわくる。
本当の手書きではないのでそりゃ出来るんだろうけど、笑ってしまいそうになる。
そうしてツッコミたい気持はあるが、誰一人気にせず当然のような顔をしているので受け流すことにした。
「
オーナーが入ってきた扉を指し示すと、ホワイドボードを運んできた人の一人がドアを開ける。
中から現れたのは神永の連絡係――
円卓の中に俺を見つけて相手が驚くのが見えた。
「
「
同じ日に話題に出した本人にめぐり会うのは、神様が結んだ縁なんだろうか。
いや、もうちょっと平和な縁にしてほしいので違うと思いたい。
オーナーが俺と流の顔を交互に見て、穏やかに言った。
「キミ達は知り合いなのかな?」
「えーっと、ちょっと話すと長い縁がありまして、ね。優史さん」
「それなりの冒険譚になるので、酒の肴にしても夜が明けます」
「なるほど。じゃあそれは、今度落ち着いてる時に聞かせて貰おう」
久々に見る青年は少しだけ大人びていて、なんだか不思議な気持ちになった。
多分向こうから見たら俺はあまり見た目は変わっていない。
近くに座る兄の顔もそうであるように、俺自身もいやになる程。
大人だということは分かる顔立ちなのだが、どうしたって『
余計なことを考えているとオーナーが知っている情報を改めて簡潔に説明しながらホワイトボードに文字を浮かびあがらせていった。
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・“ミコト”の顔ごと“月の目”を盗まれた
・退魔の一族『
・おそらく異世界の敵が“月の目”を悪用しようとしている
→過去に起きた『吸血鬼事件』と同一存在による企みの可能性が高い
・『月の目』と『退魔の当主の不在』により町が危機に瀕している
【やるべき事】それまでに“月の目”か、退魔の当主を見つける
【期限】早くて明日の日没まで(遅くて明後日の日没)
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文字として可視化されて、渋滞していた出来事が大分整理された気がした
これだけの内容を表示し終えると、オーナーがこの場に居る全員を改めて見回す。
「今ホワイトボードに書いてあるのが、ここに居る神永流くんが伝えてくれた話だ」
オーナーが流を見ると、ハッとして少しきょろきょろした後、頭を下げた。
こういう時に話を振られても正直困るのは分かる。
「それで、『水上神社に“ミコト”くんがいるので護衛が欲しい』とも言われてね。話を聞いた直後に手の空いているセバスチャンに“ミコト”くんの護衛を頼んだ」
視線でセバスチャンをオーナーが見ればどこか恥ずかしそうに頭を下げる。
この場面で照れって必要だろうか。
同じことを思ったのか、腕の中の葉も目を細めて渋い顔をしていた。
「それから、『水上神社からの連絡係も向かわせるのでそちらにも人員を割けないか』とも。こっちはたまたま店――bar『曼殊沙華』に遊びに来ていたサンドルくんとグリーズくんをbar『Bloody Moon』の従業員のように見せかけて同行して貰う事になった」
オーナーが俺の後ろ、サンドルさんとグリーズさんを見るのがわかる。
気配で一礼しているのを感じながら、オーナーの言葉を頭の中で確認して思う。
――あれ? この二人、もしかしてただのお客さんだったのでは?
後ろを振り返ると、サンドルさんと目が合った。
まだお話は続いていますよ、と言いたげに手でオーナーの方を示される。
穏やかに微笑まれてしまったので改めて前を向いた。
「それで、ツケ野郎のセバスチャン、サンドルくん、グリーズくんで店を」
「ちょっと待ってもらっても良いですか、今何か余計な単語が」
本当にトンデモない額を踏み倒してきたんだろうなぁ。
噂は嘘じゃなかったのか、なんて思いながら黒いオーラを背負ったまま微笑むオーナーは抗議の声を聞かなかったあえて聞いたのか。
一度言い直してそのまま続けた。
「『未払いのツケが数年どころじゃなく膨れ上がっている』セバスチャンと、店をよく楽しんでくれているサンドルくんとグリーズくんに護衛として店から出て貰ったことになるんだけど」
「すみません、私が邪魔をしました」
「分かってくれて嬉しいよ」
やっぱり聞こえてたんだろうな。
にこにこと楽しげにしながらオーナーの話を静かに聞く。
「外は暑いから、流くんに少し休憩して貰っていたらあの“闇”に包まれてしまってね。しばらくうちで保護することにしたんだ。空が晴れてから神永の一族にも連絡済み、であってるかな?」
「はい。『“ミコト”さんの霊体と肉体それぞれに何か起これば常に分かるようにしたい』そうですし、『一人は居た方が良いだろう』とのことでした」
「――よって、流くんは店で『神永の連絡係』を続けて貰うことになった。出来る限り護る事にしているから、腕に自信のある者達は流くんの事もよく見て欲しい」
この円卓に並んでる人ほとんどそうなんだろうな。
なんて考えていると、腕の中で暗黒もちもち水まんじゅうが耳を三つピンッと立てて鋭い目をしていた。
お前もやる気なのか。
「店の中にいるのは居合わせたbar『曼殊沙華』の従業員と、bar『Bloody Moon』の打ち合わせついでに飲んでいた二人だ」
紹介に合わせてbar『曼殊沙華』の従業員であるホワイトボードを持ってきたウェイター姿の二人が頭を下げ、次に俺の隣に座る後月さんと兄さんが燕尾服姿で揃って頭を下げた。
「彼らには店の結界の強化と、前回起きた『吸血鬼事件』との類似性。今後起こりうる可能性と対策を考えて貰っていたから、現状の整理が終わったらそちらについても共有しようと思う。キミ達がこちらに向かう間に、何か状況が変わっているかもしれないからね」
古い情報を元に導き出した戦略は無駄かもしれないからだろう。
説明を頭の中で自分でも整理しながら受け止めていくと、オーナーがセバスチャンを見た。
「こちらが話す内容としてはこのぐらいかな。セバスチャン、そちらの報告を」
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