第22話 闇を駆ける決死行
スピーカーにはしてないのに、神様の声はその場の全員に届きそうなほど力強かった。暗い空の下で走れるのか不安になったが、よく見れば自分たちの足元が淡く輝いている。道を開けるだけじゃなくて、神様はもう少し力を貸してくれたらしい。
「あ、やべ……!」
ポケットに突っ込み損ねてスマホを落としそうになり、思わず振り返ってしまう。
滑るようにして
『前を見て』と言わんばかりに前方を指し示すのが見え、そこからは走ることに集中した。
かなり強い力ではじき出したはずだろうに遠くの方に黒い塊が、うぞうぞと動き出して向かってこようとしているのが分かった。
ぞわり、と背筋を悪寒が駆けて行くような気がして足が震えそうになる。
立ち止まったら駄目だ、と力を込めて一歩ずつなんとか踏み出す。
纏わり憑いていることで俺の震えが伝わったのか、葉が支えるように背中を押し始めた。
進行方向真っすぐ、そこにある黒い塊はまだ動きが遅い。
出来る限り進まなくてはと、とにかく足を動かし続けた。
出来るだけ進まなければと思って居ると、十字路の前方右側からズルズルと何かが這う音が聞こえた。
「
「えっ」
サンドルさんの声が聞こえるのと同時にビチャァッと何かがぶつかる音がした。
突然、葉に力強く押されて転びそうになった俺は“ミコト”さん支えてくれて事なきを得る。
俺がさっきまで居た場所の真横。
右側に大きなコンクリートで出来たような壁が、道の真ん中に出来ていた。
ビチビチと先ほどまではなかった壁に阻まれて止まった黒い物体が、蠢いて居るのが隙間から見える。
「なんだあれ……」
「どいてくれ!」
今度はグリーズさんの声がするのと同時に、俺が葉に後ろへ引っ張られた。
壁の隙間からズルルルと猛スピードでとびかかってきた無数の黒いトゲを、グリーズさんが一瞬で全て斬り裂いた。
斬られた部分から燃やされた紙のようにボロボロになりシュゥウウ、と音を立てて散っていく。
「一体どうなって……」
「気にせず止まらないで走って!」
「は、はい!」
後ろからしたサンドルさんの声で現実に引き戻される。
今は考えている場合じゃない、と混乱しながらも走り始める。
あの壁はなんだ、どうして突然現れた。
そもそもあの黒い塊は一体なんなんだ、トゲになったって事は変形もするのか?
ズルズル、という音が近くで聞こえたがその全てを『突然できた壁』が阻んでいくのが見えた。
前方から迫ってくるものはグリーズさんが斬り捨てた。
あれとやりあえるって、あの人一体どうなってんだ。
いつの間にか普通にセバスさんが俺の横を並走していて、混乱を解くように語り始めた。
「壁はサンドルの能力です、キミを守るために出している。町中には残らないので迷惑も掛かりません。グリーズは退魔の能力は持ちませんが、どんなものでも斬れる。それも彼が本気で斬ったなら、あの手の類は跡形もなく霧散します。だから私はあの二人を連れてきたんですよ」
今回の町中での戦闘には『痕跡』を残すのは良くないのは俺でもわかる。
攻守のバランスのとれた息の合った、双子のような二人組は護衛に適役だった。
「それから、黒い塊は今回我々を狙う者たちが使役している“何か”です。それ以上は考えずに――いえ、知らない方がいいこともあります。知ることが相手を強くしてしまう」
ああ、得体の知れないモノのままのが良い類か。
ならそのまま、これ以上興味を持たない方がいい。
走りながら返事をする気力は残念ながらなかった。
応えなくても勝手に読み取ってくれてそうなので、視線を向けるだけにしておいた。
葉に乗せて貰えたら、とは思う。
でも普段から『安定性を取るなら一人乗りだ』と聞かされているのでこれ以上無理はさせられない。
そもそもなんで相手は俺達の位置がわかってるんだ。
「この暗闇の中で淡く光っていれば、狙われもするでしょうね」
心の中を読んだかのように、悪魔は応えて俺に微笑みかけてくる。
でも光が全くない状態では走れない、そんな特殊な目は俺は持ってない。
――なら、光がいくつか存在していれば良いんじゃないか?
ふと、ある手段が頭を掠めていく。
必要に駆られたときを除いて
これがこの町で『異質なモノ』であるのを理解した上で、教えて貰ったのだ。
行動するか迷っているとビュッ、と激しい音と共に布が破れる音がした。
「痛ッ……!」
「グリーズ!」
「止まるな、進め!」
サンドルさんの声がしたので振り返れば、グリーズさんのズボンが破けて血が出ていた。
グッと、強く力を込められて葉に前に進むように促される。
無数の影が後ろからも迫って来ているのが分かった。
斬れば消失して、壁で減らすにしたって数が多すぎたのだろう。
足を止めようとするサンドルさんをグリーズさんは突き飛ばすようにして先に行かせる。
「ちょっ……!」
「良いから行け! 護衛が足手まといじゃ話になんねぇだろ!」
迫りくる影をその場で斬り続けながら、グリーズさんは叫ぶ。
壁が出てこなくなったが、近くまで迫ると透明な何かに阻まれているのが見えるのは悪魔が何かしているのかもしれない。
セバスさんは止まらず、振り返る様子もない。
葉も少し目を細めて三つ目の一つで後ろを見ているようだったが、“ミコト”さんを運ぶ事と俺を守るのに集中していた。
――なぁ先生方、これは必要に駆られた時、だよな。
俺は走り続けたまま、覚悟を決めた。
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