第20話 神様はお見通し
多分、俺にとっての最善は戻ることなんだろう。
纏わり憑いている
「……嫌ですよ?」
「
『だろうな。言うと思った』
「おい、ここは止める所じゃないのか!?」
叫ぶ葉とは反対に、神様はため息をつくだけだった。
もっと強く引き留められるかと思って居たので、逆に俺が驚く。
「止めないんですか?」
『それでキミが止まるのか?』
「いえ?」
全く、と続けるのは流石に怒られそうなのでやめておいた。
本当にこの神様は、良くも悪くも俺の事を良く知っている。
『だからだ。キミのことだ、無理に神社へ戻した方が何をしでかすか分からん』
「そんなことは」
『居ても立っても居られなくなって、“葉の安否がわからなくて不安なので、結界をぶち壊して出ていきます”とか言い出すぞ』
「そ……こまで、では」
『せめて言い切ってくれ』
目は泳ぐ上に言葉は歯切れが悪くなる。
多分する、長引けば長引くほど俺はそういうことをする。
まだ睨んできている大きな影は、撫でても機嫌は直らなかった。
あれだけちょろかったのに、こういうところは頑固だ。
俺もそうだが多分こいつもそう。
割と自分はどうなっても良いが、誰かが傷つくのは嫌なんだ。
そういう身勝手な存在なのを自分でも理解している。
「すみません」
『聞いた私が阿呆だったんだ』
「そんなことは」
『分かっていたのに引き留めて悪かった、行くなら早い方がいい。集まってくる』
「はい」
「階段を下り、左右の木々が途切れ視界の開けた所が結界の境目だ。そこまで来たら私のスマホを鳴らせ』
「え、スマホで良いんですか」
『妙な術を使うよりかはマシで、漏れた所で“辿りやすい”。キミの兄が言っていた』
「……なるほど」
俺よりこういう計算というか、判断に慣れている感じが無性に腹が立つ。
年の差なのか、経験の差なのか。
どちらかは分からないが胸の奥から沸き上がる幼いにも程がある感情を抑え込む。
『外側に出る前に少し待つんだぞ』
「何かするんですか?」
『有象無象を一時的に遠くまで弾き飛ばす』
「道を開いてくれるんですね」
『あくまで一時的なものだ。キミ達に向かって放つわけにもいかんからな、一回しか使えない。散ったのが分かったら一気に、出来るだけ遠くまで駆け抜けろ』
「はい」
葉が不機嫌は隠さずに、少し距離を取っていたのがまたくっついてくる。
苦しそうにするセバスさんを見て、
『それはどうにもならん。ここから出るしかない』
「僕は運ぶのやだ」
「やだって……」
『葉様は優史様と“ミコト”様をお守り頂いております。護衛が足手まといでは話になりません』
冷ややかな目線を向けている神様よりも、よっぽど辛辣にかつ少しだけ苛立ちの感情をサンドルさんとグリーズさんから感じた。
色々と苦労しているのかもしれない。
この悪魔、見ての通りうっかりさんだし。
「私が担いでいきます。戦闘面ならグリーズのが向いておりますので」
「えっ?」
「『えっ?』じゃないんですよ」
周囲を警戒しているだけだったグリーズさんが、驚いてサンドルさんの方を見る。
あまり人間味がないように感じていたけど、そうでもないかもしれない。
サンドルさんは表情一つ崩すことなく、悪魔を担ぎあげた。
190センチ近くあるはずの悪魔をあっさりと担ぐ所をみると、結構体力がある。
……悪魔の体重が人間と違うのかもしれないが。
『悪魔は任せた。キミも気をつけてな』
「あの、
『心配いらん。あれは今できることをやっている』
「わかりました。竜神堂さんも気を付けて」
『……心配されるほど弱くはないが、悪くないな。ではな』
「はい、後ほど」
竜神堂さんが姿を消すと、俺達は急いで階段を下り始めた。
戦闘面が得意らしいグリーズさんが先頭。
離れすぎないように時々スピードを落としながら降りてくれていた。
ただ、一切振り返らずにどうやって距離を測っているんだろう。
その次に俺が続き、葉は俺にも纏わり憑きながら、前が見えていない“ミコト”さんを抱えて滑るように降りる。
一番後ろのセバスさんは、よほど具合が悪いのか無抵抗にサンドルさんに抱えられていた。
この神社の結界どれだけなんだろう。
頭上は暗いが、不思議と足元はほんのりと淡い水色の光が灯っていた。
普段の神社はそんなことないので、竜神堂さんがつけてくれたのだろう。
見渡せていた街並みが少しずつ近づいてくる。
グリーズさんが音もなく足を止めると、左右の木々が途切れる場所が見えた。
誰一人欠けることもなく、何に襲われることも無い。
それが本当に、結界のおかげだったのがよくわかった。
「……なん、だ、あれ」
「あまり見ない方がいいですよ」
グリーズさんの言葉と同時に、葉に目の前を覆われていく。
葉が作ってくれる心地の良い暗闇の隙間から、這いまわる何かがまだ見える。
ビチビチと音を立てながら、ゴムのような真っ黒い生きた“何か”が結界に沢山張り付いていた。
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