第18話 それはまるで双子のような
二人揃ってセバスチャンより少し前に歩を進める。
踏み出す足は左右対称で、まるで鏡を見ているかのように動きは全く同じだった。
ピタリ、と足を止めると二人揃って喋りはじめた。
『今回、
全く違う二つの声が重なっているのに、息遣いからタイミングまで完璧に同じだった。
まるで編集しように現実味の薄い揃い方に頭が混乱しそうになる。
場所が変わったことで顔が分かるようになった。
鋭く細い釣り目、背丈も体格もほとんど同じで双子のようだった。
半分だけ流している前髪、その反対にほくろがそれぞれ左右対称にあった。
「サンドルと申します」
「グリーズと申します」
先ほど頷いていた方が先に名乗り、もう一人は後に続いた。
グリーズさんが挨拶を終えると、また二人ピタリと揃って恭しく一礼した。
俺自身「よく似た別人」が生きているので、他人に間違えられるのがよく起こる。
そんな俺達にも微妙に違いはあるので、二人の異なる部分を今のうちに覚えようと観察する。
サンドルさんは最初、一人で頷いていた方。
瞳は緑色。左の頬にほくろがあり、その反対側に前髪を流していて、手袋は白い。
グリーズさんは最初、微動だにしなかった方。
瞳は紫色。右の頬にほくろがあり、その反対側に前髪を流していて、手袋は黒い。
髪型やほくろの位置が代わったりしなければ、パッと見で分かりそうだ。
悪魔が連れてきた存在であるというのを考えると、そういう事もやってくるかもしれないけど。
真ん中で穏やかに微笑んでいる悪魔と目が合うと、気さくに手を振られた。なんでだ。
居心地が悪いのでサンドルさんとグリーズさんに意識を向けて軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
『こちらこそよろしくお願い致します』
なんかスピーカーみたいだな。
口にしたら流石に失礼なので思うだけに留める。
ムスッとしながら赤い舌を出して煽る。
「優史は僕が守るんだぞ」
『お話は伺っております、葉様。なるべく私どもで対処致しますが、万が一取りこぼしが起きた際には頼れるのは貴方様です』
「わ、わかってるじゃないか……」
『ありがとうございます。至らない点もあるかとは思いますが、お力添え頂けますと幸いです』
わぁ、この暗黒もちもち水まんじゅう、もう機嫌よくなってやがる。ちょろい。
耳を左右にゆったり揺らしながら、俺にぴったりとくっついてきた。
悪魔を見ると、口元に手を当てて微笑んでいた。
絶対何か事前に吹き込んでいる。
サンドルさんと目が合うと、どことなく目を細めて「わかっておりますよ」と微笑まれた気がした。
悪魔の連れてきた人材は、人心掌握術も完璧なのだろうか。
いや、葉は人ではないんだけども。
改めて
任せてもいい人物らしい。
よっぽどの邪悪ならこの人の前にそもそも立てないし、鳥居の前にも近寄れない。
竜神堂さんを超える存在だと意味を成さないらしいのだが、深く考えないことにした。
そうしている間に、セバスさんが話を進める。
「日が長いとはいえ、夜が近づくほど不利になりますし移動してもよろしいですか」
「ああ、同行できずに申し訳ない。優史くんと“ミコト”を頼む」
「お任せください。私、これでも『契約事』はちゃんとしておりますから」
「そこでうっかりされては困る」
「おや、これは手厳しい」
ワザとらしく肩をすくめる悪魔に、
茶化すのはまずいと思ったのか、スッと真面目な表情に切り替えるとセバスさんは言った。
「私としてもこの町には平穏で居て頂きたいですからね」
「利用しがいがあるのか?」
「いいえ、バーいらっしゃるお客様達が楽しんでいる町ですから」
本当に悪意のなさそうな笑みで、悪魔は楽しそうに笑った。
信用していいのか迷ってしまうが、和眞さんはどこか嬉しそうだった。
「そうか。では俺は
「はい、また」
こくり、と“ミコト”さんも頷いて手を振る。
何だこの町、手振るの流行ってんのか。
和眞さんはそれを見て、踵を返して神社の奥へと歩き始めた。
その背に向かってセバスさんが声をかける。
「お気をつけて」
「悪魔に言われるとはな」
「私は人間には友好的ですので」
「そうか。いつまでもそうしていてくれ」
和眞さんが少し遠くなってから神様を見る。
すると、瞳を閉じて静かに告げられた。
『悪いが俺も今回は水上神社に残る。和眞だけでは知らないことも少なくない。強化するなら日中だしな。悪魔もその二人も強いようだが、俺にもこれから何が起こるか分からん。くれぐれも気を付けるのだぞ』
瞬きで俺が返事をしたのが伝わったらしく、神様は俺の頭を優しく撫でた。
いや、もう子供じゃないんですけど。
小さな頃に何度か撫でられたのを思い出して少し恥ずかしくなった。
それからすぐに“ミコト”さんと手をつないで一歩、神社の外へ踏み出す。
その時だった。
さっきまで晴れていた空が、一瞬で空が真っ暗になったのだ。
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