第16話 頼まれた連絡係
「一日ちょいで何とかしないといけない、と」
「まあ、情報の回り方によっては今晩もシャレにならんかもしれんがな」
「そこは出来るだけ楽観的に行……けるぐらい皆さん強いですよね?」
「だと良いんだが。これはもう相手によるとしか言いようがないな」
はぁ、と短くため息をついて
神様は難しい顔をしながらも、今出来る限りで神社自体の護りを固める為に力を動かしているようだった。
少しだけしか詳細は知らないが、この町には色々なモノが来るのだ。
去年、俺は初めて認識してしまったのだが『夏の嵐』というモノがある。
遠い昔、この町も巻き込まれたとても大きな戦いで亡くなった罪もない人達。
自分が何であるかも忘れて彷徨い続け災厄になったもの。
町中の人ならざる者や協力者たちが力を合わせて、やっとやり過ごす『ことしか出来ない』強大な巻き込まれる者を出してはいけない何か。
そういった類に近いものが結界もなしに来てしまえば、本当にシャレにならない。
嫌な妄想はなるべくしたくはないが、好奇心は止められずに口をついていた。
「ちなみになんですけど、どっちも期限までに見つからなかったらどうなります?」
「当然そうならないようにするが、出来る限りの応援を呼ぶつもりだ。その為、俺はこの後ここから動けなくなった」
「連絡係、ですか」
「ああ。
「そういえば今日、
水上神社の宮司――
アイドル関係で祈祷やらなんやらでお世話になっているので、俺も面識はあるしそれなりに親しい。
普段なら有事の際は眞琴さんが神社に残り、和眞さんが連絡係を務めることが多いのだ。
「水道橋も色々あってな、町の外に住んでいる親戚の家だ。今日は戻ってこないだろうな。運が悪ければ明日も居ない」
「うわ、タイミングが悪いですね」
「本当にな。そこで、巻き込むのも申し訳ないのだが」
「乗りかかった船です。連絡係ですよね、任せてください」
移動中はここの神様が多分守ってくれると思いますし。
言葉には出さず、視線を向けると神様は不意をつかれたような顔をしていた。
視界に三つの耳をピン、と伸ばして左右に揺らして
もちろんお前も頼りにしてる、の意味を込めて指で頭を優しく撫でてやる。
腕の中の暗黒もちもち水まんじゅうは満足げに微笑んだ。
ちょろい。
「すまんな。一人では対処しきれないだろうから、キミが了承してくれたら護衛もつけるよう話は通してある」
「ん? ……その人達に連絡を任せればいいのでは?」
「腕っぷしが強いというのと、情報そのものを渡した上で任せていいかの信頼は別物だ」
思った以上に重大な役回りを任されたような、かなり信頼されている事実に少し顔が緩みそうになる。
良かったなぁ、とでも言いたげにニヤニヤしてこちらを見てくる神様と暗黒もちもち水まんじゅうは無視することにした。
ビシッと姿勢を正し、自分でも珍しいと思うが元気よく返事をした。
「が、頑張ります!」
「ありがとう、頼むぞ」
「はい!」
返事をしたところで、護衛とは一体誰の事だろうと思った。
今まさに隣に居て、神社の強度をあげている神様は和眞さんには見えていない。
「一体、誰が護衛になるんですか?」
「俺は正直会ったことは無い人物だな」
「え、大丈夫ですかそれ」
「『守る』という事においては申し分ないそうだ。キミは賢いが、戦う力は持ち合わせていないからな」
「一応、軽い護身術は覚えてますけど……異世界の存在だとほとんど未知ですね」
「そうだ。もしかしたらキミは顔が広いから知っているかもしれないな」
「それなりには知ってますけど、『こちら側』ではそんなには。香月さんだったりとかします?」
「彼は棲む場所が町中で、近所の人の事を把握しているので近辺の見回りを担当して貰う予定だな」
「いい線いってると思ったんですけどね」
会話をしているうちに、目の前で立ったままの“ミコト”さんが気になった。
霊体とはいえ強い力は持ったままだし、この人も出来るだけ安全な場所に居た方がいいんだろう。
水上神社にこのまま残るのだろうか。
「あの、“ミコト”さんはどうするんですか?」
「ん? ああ。それについても話はしてある。水上神社は守る場所としては申し分ない強度はある。だが結界としては隅、境界側にあるからな。無いとは思うが『万が一』を考えて中心部へ移動して貰うつもりだ」
「なるほど。護衛がつくなら俺も一緒に行けば良いですかね」
「そうして貰えると助かる、が」
「どうしました?」
分かりやすく和眞さんが目線を逸らした。
また説明に困っているようで、続きを待ってみると別の人物の声がした。
「説明しにくいなら請け負いましょうか。まあ、私一人に“ミコト”様を任せるよりは、彼も一緒の方が随分とマシだと思いますがね」
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