第10話 竜神堂の情報
「もう少し安心できるように登場して貰っても良いですか、
「私にも立場というものがあるんだ、すまんな」
イケメンがしそうな首を痛めたようなポーズを決めながら、木々の
俺のかつて所属した事務所とマネジメント契約を結んでるだけあって立ち姿は美しい。
いや、契約してるのはモデルでも俳優でも無くて、歌手としてだけど。
ちょっと格好いいとか思ってしまったのを俺は飲み込んで会話を続ける。
「
「町で愛される和菓子屋『竜神堂』が世を忍ぶ仮の姿、だと言うのはあいつにはバレるわけにはいかん」
「頑なだなぁ」
竜神堂さんは人以外との関りを持ち、町に有益であると判断した相手ならばかなりあっさりと自分の正体をバラしてしまう。
なのに、小さいころからこの神社で育っている和眞さんには言わないのだ。
「それよりも、今は“ミコト”のことだ」
「竜神堂さんには“月の目”がどうなってるかわかるんですよね」
「ああ、そのために来たからな」
竜神堂さんが爽やかに笑うと、
視線に気付いたのか、ただでさえ鋭い切れ長の瞳を細めて柔和だった雰囲気が一瞬で張り詰める。
凍りつくような、息さえもできなくなりそうな威圧感がその神からは溢れ出ていた。
「抗議したい気持はわかるが落ち着け仔ウサギ。
普段よりも低い声が、地を這うように全身を上から、そして内臓の内側からも握り潰しそうな重みと共にのしかかる。
キュッ、と短く鳴くと三本耳をピンと立て身を震わせた後、俺に縋りつくように胸元へ来たのでしっかり抱きとめてやった。
神社に入った時よりも二回りほど小さくなった暗黒もちもち水まんじゅうは静かに震えていた。
腕の隙間に入ってくる耳が少しくすぐったかったのだが、そのままにして頭を撫でて落ち着かせる。
人間だからこそ許される、今までの関係を考慮した上で自分の感じている恐怖は飲みこんで神を睨みつける。
「消し飛ばしたくないなら、脅さないで貰えますか」
「キミの、その物怖じしない所が私は嫌いじゃないぞ」
「俺はハッタリが得意なだけですよ」
何年も人前で顔を作り続けたら、足が震えそうな時も抑えられるようになる。
俺が居たのはそういう世界だったのだ。
空気が穏やかになって、神様は優しく微笑んだ。
「“
「どういう意味です?」
「長く
赤い方の目を見て、誰かを重ねられているような気がした。
フ、と短く息を吐き出すとそれ以上は触れず、竜神堂さんは本題に入った。
「さて“月の目”についてだが、今のところは誰にも転移されていない」
「顔が盗られてるのに、ですか?」
「ああ。むしろそのために盗った、と見ていいだろうな」
先ほどの押しつぶされそうなそれではなく、盗った犯人に向けられた敵意のようなものを感じた。
葉がそれでも怯えたのが分かったので、頭を撫でてやりながら話は続ける。
「あの、“月の目”って顔だけあれば誰でも使えたりします?」
「使えんだろうな」
「なら、悪い方には転がらないですかね」
取り戻すだけで良いなら、能力の心配をしなくてすむだけマシかもしれない。
なんて甘いことを考えた俺を見透かしたかのように、凛とした声が神社に響いた。
「盗ったのがこちらの世界の者ならな」
「ちょっと待ってください。俺が思ってるより壮大な話だったりします?」
別に好きに喋ればいいのだが、発言権を求めるように片手を軽く上げてしまった。
竜神堂さんは一瞬空を見上げて、どこから説明するか迷ったらしく少しだけ間を開けてから続けた。
「“月の目”の時点でそれなりに壮大だとは思うんだが?」
「そこから突っ込むとキリがないのでそこは受け流しました」
「キミの、とりあえずそのまま受け入れるのは良い所だろうな」
「ありがとうございます」
俺の言葉を竜神堂さんもそのまま受け入れたらしい。
出来るだけ俺が分かりやすい言葉を選んで、説明してくれた。
こういう時に神様が俗世に染まっていると話がしやすくて助かる。
「『異世界を巻き込んだ争い』は、ゲームならそれほど珍しくはないのだろう?」
「ゲームに限らず物語なら結構あると思います」
「そうか。なら話が早いかもしれん。『異世界の力を利用して世界を掌握しようとする者』がどうも居るらしくてな」
本当にゲームやアニメならよく聞く台詞を今、神様から聞かされている。
現実に頭がついて行かなくなりそうなのを引き戻す間に続きが述べられていく。
「“月の目”って
「ああ、『この町では』そうだな」
――町以外だったらどうなるんだ。
無駄に色んな物語を楽しんできた記憶が、あらぬ方向に思考を転がしかける。
町一つ、人の位置を正しく認識して見渡せす事の出来る目。
それが、もっと広い範囲に使うことが出来るなら。
この町を護る為に“月の目”を使う“ミコト”さんのような人じゃなく。
ロクでも無い人間が、私利私欲のために使うつもりなら?
肝が冷えるような感覚がして、目的を認識仕掛けたことで"何か”に引っ張られて意識が遠のきかける
足に力を込めようとしても、地面がスポンジになったみたいにふわふわする。
――認識した“だけ”でこれはヤバい。
葉が“何か”を感じ取ったらしく、耳で頬を包み込むように撫でてくれた。
けどそれでは足りなくて、“何か”に俺の意識を持っていかれそうだ。
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