第6話 渡されたモノ
出したものをどう渡すか悩んでいるようで、俺は手を差し出してみる。
「おい
「大丈夫だと思う」
相手は一瞬、躊躇ったように見えたが距離を確かめてからそっと上に置いてくれた。
カサリ、と音がしてくしゃくしゃの紙らしきものがそこにはあった。
「……食べるか?」
「食べちゃダメだ。ちゃんと確認して見ないと」
真剣に危険かもしれないから処理を申し出る葉を宥める。
いや、俺のためとは言え得体の知れないものを食おうとするな。
元々スナック感覚で紙を食べたりするので麻痺しかけたが、口に入れるのは良くない。
そこまで考えて根拠もなしに“大丈夫だ”と言った自分を棚に上げている事に気づく。
俺はこの、得体の知れない暗黒もちもち水まんじゅうと似た者同士なのかもしれない。
なんて思いながら見つめていると、葉は赤い目をくるんと丸くした。
「……やっぱり食べるか?」
「いや、そうじゃねぇよ。食うな」
手の平でカサリと紙を広げていくと、スケジュール帳の一ページを破ったようなものだと分かる。
黄色っぽい色味の、万年筆を使っても裏移りしない書きやすい紙で触り心地も良い。
よく見て見ると、そこにミミズが走ったような文字が書かれていた。
申し訳ないが、俺には読めそうにない。
目の前に居る青年を見れば、どうやら彼は読めないことも分かっていたのか俯いていた。
葉は紙の内容ではなく、見張るかのようにそちらを見ている。
視線をずらして和眞さんの方を見ると、俺の開いた紙を覗き込んでいた。
「和眞さん」
「安心していい、呪詛の類ではない」
「あ、確認ありがとうございます……じゃなくて。これ、読めます?」
呪詛についてはハッキリと否定したものの、和眞さんは眉間に皺を寄せてしばらく考えていた。
俺も読もうとしてもう一度見たものの、やはり読むことはできない。
その間、葉はずっと彼の方を見つめていた。
「……すまない。あまり使われない書体か、古い文字に見えないかと思ったのだが、わからない」
「そうですか。俺も分からないですね」
会話は聞こえているのか、俯きだった青年が分かりやすく肩を落とすのが分かった。
これが解読できれば少しは進展する、ような気がする。
特に期待はしていないが、葉に紙を見せてみた。
「読めるか?」
「……“顔を盗られた、相手は分からない。まずいことになった”?」
「読めるのかよ!?」
「どこからどう見てもそう書いてあるだろう」
どこをどう見たらそう書いてあるんだ。
ここでそんな問答をしても葉の機嫌が悪くなるだけなのでぐっとこらえる。
さも当然のように、俺の顔を不思議そうに葉は見た。
影だから読めるのか、人間には読めないのか。
考えたところで結果さえ得られれば問題はないので、好奇心は横に置くことにした。
そうしている間に、和眞さんが葉に問いかける。
「どういう意味なんだ?」
「見たままの、そのままの意味だろうな」
三本ある耳のうちの一本を器用に傾けて、青年を示した。
見つめていると吸い込まれそうなぽっかりと開いた顔のない部分。
盗られたのなら、見たままなので状況としては分かりやすい。
スケジュール帳を破って走り書きをして持っていたのだ。
このメモは彼が顔を失う直前か直後に、どうにかして手探りで書いたものなのかもしれない。
相手は分からない、もおそらく犯人が分からないという事で良いだろう。
そこで残った疑問が気付けばそのまま音になっていた。
「“まずいことになった”……って一体なんだろう」
「それは……」
「ここに居るのが“ミコト”なら、確かにまずいな」
和眞さんが言い淀むと、葉が赤い目を細めながらどことなく苦々しい表情をして付け足した。
二人が知っていることを俺は知らないので、状況がイマイチ掴めない。
“ミコト”の言葉にびくりと反応した後、彼はまたうなだれるように俯いた。
「……どうやら本当に“ミコト”さん、みたいですが」
「どうする神主、相当まずいぞ」
「ああ、これはまずい」
葉が目を最大限に細め、梅干し食った後ぐらいしょっぱい顔をする。
同意する和眞さんの顔は、若干青ざめているように見えた。
「一体、何がまずいんですか?」
「そうか、君は知らないのも無理はないな」
相変わらず何も分かっていない俺は、純粋な疑問を口にする。
この町の“普通に生きていれば関わらない”部分を知ったのはここ数年。
特に去年から、葉と暮らし始めたことで深く関わるようになっただけなのだ。
猫ノ目書房のテンチョウもそれなりには教えてくれるのだが。
「ちょっと危険な目に遭った方が早く覚えるだろう?」
なんて説明不足のまま放りだすし、遭遇してからしか救ってくれない。
救ってくれるだけマシだが、時には囮にされたりなんかもした。
一方で和眞さんは、嫌な顔一つせず危険や回避方法を丁寧に教えてくれるのだ。
今までと同じように、だが神妙な面持ちで
「この
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