幕間 高知からの手紙

前略 我が不肖の弟、乙弥へ

 牙竜おじさんと母さんが乙弥に手紙を書けと言うけれども、特段書くこともないから近況報告を書く。

 とはいっても、こっちは特に変わりないよ。相変わらず父さんはずっと漁で帰ってこないし、母さんは仕事で忙しいし、木戸神社には誰も来ない。超絶美人で可愛い看板巫女の私が毎日番をしてるってのにみんな見る目がないよ、全く!

 変わったことといえば水面やら火村の分家から見合い写真が大量に届くようになったぐらいだよ。こっちは「神主になって神社継いでくれる婿を探してる」って再三再四言ってるのに、分家のジジババはみんな自分の息子が本家の女を孕ませれば自分たちが本家になれると思い込んでるのかね?それにしたってハゲたおっさんやらニキビ面のガキの写真ばっかり届くもんだからいい加減嫌になってきちまったよ。アンタから、さだめおばさんに言ってやめさせてくれたら感謝感激雨あられさ。

 あと、(前に言ったか忘れたけど)あんたが東京に行くのを許されてるのはあんたが強いからじゃなくあんたが男だからってだけの理由なんだから、くれぐれもモノノケ相手に無理はしないように。それと、こっちじゃ広島派と高知派が私とあんたを勝手に代理にしてやりあってるけど、私はそんなことは気にしない。父さんやおじさんたちが何言ったって、あんたに当主の座を譲る気はさらさらないよ。んでもって私が先に結婚相手を見つけたら今度こそ皇學院に入ってうちの神社継いでもらうからね!農協への就職だってあんたが無職になりたくないからって渋々選んだことなんだし、悪い話じゃないだろ?ま、それが嫌なら死ぬ気で嫁探しすることだね。

 まあ色々書いたけど、母さんも牙竜おじさんもあんたのことは気にしてたからたまには電話しなさいよ。私と父さんはあんたならまあ何があっても大丈夫だろうと思ってるけど、母さんたちにとっちゃあんたはまだまだ手のかかるガキみたいだし、早いとこ嫁見つけて一人前の大人だって母さんに胸張って言えるようになりなよ。それじゃあ、死なない程度にがんばってね。


 二〇一五年四月末日

          親愛なるお前の姉、甲子より


追伸:今度のGWに花道と環がそっちに行って火村への嫁入りの話をするらしいから、二人の案内は任せたよ。東京で遊べば少しは気が晴れるかもしれないしね。

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